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サイドストーリー:アンナ・レビュラート 外伝・本譚3

ちょっと過去話とも言うべき話

「‥‥‥嫌ですね。お断りさせていただきます」

「な、なぜだ!?この僕らの旅にどうこうすれば将来的に明るい未来があるんだぞ!!」


 驚く目の前の者たちを見ながら、私、アンナ・レビュラートは溜息を吐いた。



「そもそも私に利益はありませんし、そんなことに興味もありません。尽くす義理もないですし、行く意味もないでしょう?」

「そんなことはない!!この魔王を倒すために力を貸して、旅に一緒に来てくれれば必ず物凄い褒美や栄光が与えられて、将来幸せになるはずなんだぞ!!」

「そうよそうよ!!この勇者様についていけば、必ず素晴らしい未来が切り開けるはずよ!!」


「‥‥‥お引き取り願います」


 しつこいので扉を閉め、ついでに蹴破って来られてもいいように、あらかじめ手持ちに用意しておいた転送用の魔法陣で、別の場所へ私は逃げた。


 中に入り込んでもすでにもぬけの殻の上に、使い捨ての魔法陣なので追いかけることもできないだろう。


 悔しがる彼らの様子を考えると、密かに笑みがこぼれた。







 今は亡き師匠の研究を引き継いで1500年ほど経過し、今私はたまにこうやって人里に出て食料や研究用の材料を買いに来たりしているのだが、今日は運が悪かったようで巷で噂の勇者御一行と鉢合わせしてしまったのである。



 勇者とは、どうやらこの世界に魔王なる存在が現れたようで、その魔王を討伐するために異世界から召喚して呼ばれてきた、とんでもない力を持つ集団だそうだ。


 その数、合計36人ほど。



‥‥‥ただし、現在残り12人ほどらしいが。


 なんでも物凄い力を手に入れて有頂天になった人たちがいたようで、力を行使してムリヤリ国を乗っ取ろうとしたり、むやみやたらに改革を推し進めたりした者たちがいて、暗殺や決闘、戦争参加によっていつの間にか人数が減って来たそうな。



 魔王を倒すために呼び出された存在の数を減らすような真似をするなんて、止めることもしないし馬鹿なのだろうか?




 そもそも魔王が現れたから勇者を呼んで解決しようとか言っているのだが、その辺からおかしいことはすでに私は知っていた。


 魔王は魔王でも、どうやら獣人やエルフと言った亜人系統を保護し、人間だろうと仲良く平等にやろうといろいろな平和交渉を行ったりして‥‥‥なんというか、イメージ的に悪逆非道な悪の大魔王と言う感じではなく、慈悲深い人の様な話ししか聞かない。


 だが、魔王のいる場所がどうも資源が豊富な地域らしく、そこを狙っているとある国が勇者を召喚した。


 魔王討伐という建前の裏では、その地域の資源強奪と亜人種への偏見及び奴隷化目的という、どっちが悪なのかわからないような理由で。



 勇者は勇者で好き勝手やって、魔王討伐を目指す人はいることはいるのだが、どうも根本的に絶対悪だと決めつけているふしがある。


 魔王を倒すことが勇者の宿命とでも言うような、なんか自分に酔いしれている典型的な馬鹿であろう。





 そして先ほどの勧誘してきた人たちもどうやらその一派のようで、どうやら相手の技量を知る力を持つ人がいるようで、私の力量を見定めて勧誘してきたようだった。


 面倒だし、そもそも手伝う義理もないのでお断りしたが‥‥‥何人かの男性の勇者は私の身体だけを見ているようで、気持ち悪かった。私は一生独身を貫いているわけはないけど、あの者たちに体を許す気はない。


 ああ、そういえば娼館で勇者が上客として扱われているとか言う噂もあったっけ。ケモミミ萌えとか、ロリコンとか、ドMとか‥‥‥ろくでもない人ばかりしかいないのだろうか。






 とにもかくにも、あの市場にはもういけないだろう。待ち構えている可能性があるし面倒だ。


 私としてはひっそりと生きていきたいし、関わり合いも持ちたくない。


‥‥‥そういえば先日、魔王城の方からも勧誘の手紙が来たんだよね。こっちの方がやりがいがありそうなんですよね。




‥‥‥にしても、あの勇者を召喚した国の者たちはわかっているのだろうか?


 異界から人を転移させるその技術は‥‥‥この世界を滅ぼす行為になっていることに。


 この世界以外にも、様々な数多くの異世界があるのは師匠の研究で私は知った。


 どうやら師匠は事故か何かで偶然この世界へたどり着いたモノらしく、私を弟子にして魔法などを学ばせる合間に、元の世界へ帰る研究もしていたそうだ。


 だが、その途中で魔法陣などで強制的に別の世界の者を、正確に言えば肉体を持った生物を世界を超えて召喚してしまうと、そのあて先の世界そのものに重大な負担がかかってしまうそうなのだ。


 その負担が蓄積するにつれて世界そのものがどんどん滅びの道を辿り‥‥‥行くつく先は何もない無の世界、いや世界の崩壊である。



 その事を知った師匠は、改めてこの世界そのものを調べてみたら、なんとあの勇者召喚のようなことは過去にもあったようで、だいぶこの世界は痛んできている状態なのだとか。


 何かがあるたびに解決しようと異世界の者を呼ぶ国が多く、そのせいで崩壊に向かっているらしい。


 そこで、師匠はこの滅びの道に向かう世界から出る方向へと研究を変えたそうだ。


‥‥‥なんと、弟子である私も一緒に出来れば同行できるようにという心遣いもあった。


 ただ、その矢先で師匠は命を落とし、その研究を引き継いだ私はその事実を知ったのだが‥‥‥これがなかなか大変である。


 世界を渡るためにはまずこの世界そのものの正確な把握から、渡るためのエネルギー源や、行き先の崩壊もできれば防ぐために負担を軽くする術式など、もう山のように課題があった。



 一応計測するとまだまだ余裕はあったようだけど‥‥‥今回余計なことに召喚してくれた国があったせいで、計測し直し。


 多分崩壊が早まっているんだろうけど‥‥‥注意する意味もない。




 何しろ、魔王が討伐された後にその召喚した国は勇者たちを今後の憂いがないように密かに処分する予定らしいからである。


 表向きは元の世界への転送。でもそんなことはできるわけがない。


 引っぱってくるのは簡単、押し戻すのが難しいというようなことなのである。




 勇者が全滅したら全滅したで、新たに召喚するだろうし、自らの欲望のために動いているところに手助けする必要はあるのだろうか?


 とにもかくにも、今日も私は師匠の残した研究を進めに帰路につく。


 どうせこの世は弱肉強食、どうなろうが私には知ったことではない。








‥‥‥後日、勇者召喚をした国から手紙が届き、毒殺したいから毒をくれという内容だったので、思わずその愚かさに私は笑ってしまった。


 これってさ、滅びの道を自ら進めていることに気が付かないのだろうか?毒殺後にまた召喚する気なのはわかっているし、自らこの世界の崩壊を進めているというのはもはや道化ではないだろうか。


 そう言うのを分かっていない人たちは私は嫌いである。




……ただ、時折ぼんやりと私は何かを思い出すことがある。


 今の私ではない前の私が、おそらく好きだったであろう人のような容姿を。


 名前を忘れているけど、つい最近少しだけ名前を思い出した。


「月夜‥‥‥でしたっけ」


 その言葉とその姿を思い浮かべ、その人の事を考えると自然と胸が高鳴るのを私は感じた。


 今の私はまだ会ったことがない人物。けれども、想うことによって好きだと思えるような人。


 もし、この師匠の研究が成功し、この世界から出ることが成功したのであれば‥‥‥その人の下へ私は行ってみたい。


 今はまだ私自身の気持ちにぼんやりとした好意しかない。


けれども、出会うことによって‥‥‥本当の恋になるのかもしれない。


 そう考えて、私は今日も師匠の研究を進めてくのであった‥‥‥



次回から新章予定です。

ここでお知らせ!!

作者の新作をもうそろそろ投稿しようと考えています。

魔物使いの話の新作であり、原点回帰を試みて初心で書いてみようと思っているのです。

何しろ長く続けているシリーズですからね。やっぱり原点回帰は大事です。

タイトルが思いつき次第、投稿を開始いたして活動報告にも載せますので、興味があれば読んでみてください。‥‥‥しばらくは(仮)がつきますが。

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