#96
一応事後処理回
‥‥‥マッキーナが連行されていった後日、彼女はラフター皇国に『不死の拷問』とも呼ばれる処分を受けさせられ、その後行方をくらませた。
噂によると、相当見ている方も精神的に来る光景となり、悲鳴も悲惨ですさまじいために防音されまくったどこかの地下牢にて今もなお行われているのだとか。
さんざん皇国内をかき乱され、ラフター皇国は違法奴隷の販売などもすべてさらけ出され、何年かはほぼ確実に苦しい立場に追いやられるであろう。
「そういえばさ、アンナがあの腐れ女の魂魄獣に施したのってなんだ?」
『神からの指示で、魂魄獣としてのすべての力の没収と、雷獣から格を落としてただのウサギに変えた上に、人格消去ですね。魂魄獣は主の才能を目覚めさせ、友として、家族としても常に使えるべき存在。けれども、その手を犯罪に染め、その上主の暴走を止めようとしなかったことなどもあっての処分だそうです』
‥‥‥かなり重い処分である。
なお、その施した術式などについてはすでにアンナ自身も自らの記憶消去を施したことによって不明である。悪用を避けるためと言うのと、ちょっと人には言えないようなものが多すぎるのが原因だそうな。
ほぼ禁術にあたる事であり、今回は特例でアンナが行使するのを許されたようである。
『何せ魂魄獣を無理やり変質させることですからね。‥‥‥物質型ならただの物へ、神獣型および獣型ならただの獣へ、スライム型ならおいしいゼリーへと様々ですよ』
「スライム型だけ食われるのを前提にしていないか?」
なんにせよ、今回の作戦へすべてうまくいき、排除することは完了した。
ラフター皇国は今後政変などに見舞われるはずだろうけど、そこは魅了されていた当事者たちの自己責任という事で。
「で、何でまだこの学校にいるんだよルシスたちは」
「あっはっはっは、ミーは一応留学目的で来ているからね。あの女から逃げるためだったけど、脅威が去れば普通に楽しむつもりでもあったのさ!!」
「正しく言えば、国内が忙しすぎて馬鹿兄貴たち全員国外へ一旦追い出されたのさ。何しろ王族のほとんどが魅了されてもいたし、下手すりゃ近いうちにあたしやこの大馬鹿兄貴は王族剥奪で平民になるだろうよ」
ルシスの説明を、ネリスが補足して言った。
ラフター皇国の王族の現状を考えるなら、まだこの国いいたほうが安全性はあるだろうしね。
「ついでに、まだまだいるはずの女の子たちを目当てにしているという下心もばっちりあるのだ!!」
「何をまた馬鹿な事を言っているんだ、この馬鹿兄貴ぃぃぃぃぃ!!」
ルシスの言葉に、ネリスがもはやおなじみとなった怒涛のお仕置きを実行した。
今回はバックドロップからの足をつかんでぶん回し、そのまま放り投げていつの間にか設置されていた剣山が多く設置されている場所へ‥‥か‥‥‥ううむ、ますます馬鹿になるだけなのではなかろうか?というか、血みどろの光景なのに慣れているのはどうなのだろうか。
それはそうと、あのマッキーナに対しての制裁の影響か、それともこんなお仕置きの光景を見ていたせいか、どうもなぁ‥‥‥
「たしか『才能学習』って共同作業とか共に練習でその才能を得る才能だったよな?なんでこれが付くんだろうか‥‥‥」
『あ~、多分今回のあの屑女への制裁がお仕置きのようなものであり、ネリスさんが制裁を加えたかった相手のようなものなので、多分条件がはまったんじゃないでしょうかね?』
どういうわけか、いつの間にかカグヤは「お仕置きの才能」なるものをネリスから学んで習得してしまっていたようであった。
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『お仕置きの才能(???専用)』
対象者にたいして、全能力が向上し、またお仕置き用の道具(例:ハリセン、輪ゴム、メイスなど)を自動的に手許に引き寄せて使用して、対象をフルボッコ可能である。使用した道具はお仕置き完了後消滅するのだが、対象以外の相手には効果が全くないし、他人が触れることもできない。
手加減によってギリギリ殺さずに済むようにできている。
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「対象が不明な状態ならまだわからないのか?」
『相手がいて初めてそこが分かる才能ですからね‥‥‥まぁ、無駄に眠る才能になるでしょう』
要らん才能が増えてしまった……誰が対象になるのか分かればいいのだが、そこは相手が出てくれないとな。
学校の授業が終わり、カグヤたちは寮の自室へと戻った。
ベッドの上にぐだーっとカグヤは体の力を抜き、横たわる。
こうやってリラックスるするのも悪くはない。
「しかしまぁ、よくもあんな女に魅了の才能があったもんだな」
『その事ですが、どうやら神の方からのメッセージによりますとあのようなことになるとは思っていなかったそうです』
「?」
カグヤのつぶやきに、アンナが返答した。
アンナが神から受け取ったメッセージによると、あの屑は‥‥‥マッキーナは元々まだ良い子だったらしい。
スラムで必死に生き抜き、そのたくましさは美しいモノだったのだとか。
だが、教会で魂魄獣を受け取り、才能が開花したころからちょっとしたた変化が起きたそうだ。
あの魅了の才能は本来ならば、他人から少し好かれて人間関係を良好に築けるほどの控えめなモノだったらしい。
だが、スラムにてある日‥‥‥マッキーナは越えてはならない線を踏み越えたそうだ。
『カグヤ様にわかりやすく言うならば大麻のような薬物、それが彼女を変えたようです』
魅了の才能で好かれやすくなっていたところで、スラムにいたろくでなしのような人達にも好かれ、その時にお勧めだよと言われて‥‥‥薬物に手を出してしまったらしい。
そして思わぬことに、偶然と言うかその薬物が彼女の体内に入り込んだ時に、なぜか才能が強化されて強い魅了を放つようになったのだという。
‥‥‥そして、そこからマッキーナは狂いだした。
己の魅了が強化されたのもあって男たちが膝まづき、肉体関係をもって快楽に溺れ、更に魅了を強化しようと薬物にのめり込んで半ば中毒者に近いようになり、人体実験などもするようになった。
たった一つのきっかけによって、人生もマッキーナ自身も狂い、そしてあのもう脳内お花畑の図々しい露出狂のような状態にまで変わってしまったのである。
『才能をどう生かすかと言うのはその人次第であり、別にどうこう言えるわけではありません。ですが、その才能の使い道を誤った時に、もはや彼女を止める者が居なかったからこそあそこまでの暴挙に出るようになったのでしょう‥‥‥』
「結局、悪いも何も、その人自身が選ぶ選択が原因という事になるのか‥‥‥」
己にある才能をどう使うかはその人次第。
けれども、それを悪事に利用するのは‥‥‥当たり前だがいけないこと。
けれども、その事を理解せずに、止める人がいなかったからこそ悲惨な結末にまでマッキーナはたどり着いてしまったのだった。
「才能や色欲に溺れ、人として堕落したマッキーナの結末は破滅の道。どこかで変えられなかったのだろうか?」
サラを傷つけるように指示し、ラフター皇国内でも悪逆非道の数々をしてきたマッキーナ。
でも、やっぱりどこかで変わる手立てはあったんじゃないかと、騒動が終わったとにカグヤはつい思ってしまうのだ。
『‥‥‥カグヤ様は優しいですよね。あれだけ酷い人でも、更生のチャンスがあると思ったらそう考えるなんて』
「お人好しのようなものかもしれないけどな。それに‥‥‥他人事でもないように思えるんだよ」
カグヤが思うのは、己の才能。
強力な物や、他人の才能を会得可能な物もあり、組み合わせによっては強大な力となるだろう。
今は自身で制御し、目立たないようにそこそこの状態を保っているのだ。
‥‥‥けれども、マッキーナのように何か自身を変えるようになるきっかけに出くわした時はどうなるのか。
その時に、自分は力の使い道を誤ったりしないのだろうか。
不安になり、考え込むカグヤ。
そのカグヤの様子を見て、アンナは人の姿となって、後ろからカグヤを抱きしめた。
「‥‥‥アンナ?」
『大丈夫ですよカグヤ様。己の力に飲み込まれる可能性が怖いんですよね?そのときには、私が命をかけてでもカグヤ様を誤った道へ向かわないように止めてあげますから。‥‥‥もう終わったことですし、そう難しく考えなくていいんですよ』
そう言いながら、アンナはカグヤを優しく包み込んだ。
「‥‥‥そうか、ありがとうアンナ」
そのアンナの気遣いは、カグヤにとって暖かいモノだった。
しばしの間、カグヤはアンナのその抱擁に安心して包まれるのであった‥‥‥
「でも前に来るなよ?」
『‥‥‥流石に学習していますって』
以前、アンナに窒息死させられかけた恐怖を、一瞬カグヤは思い出したが‥‥‥
‥‥‥微妙に最後がしまらなかったような気がする。うん、でもあれは凶器だ。
ちょこっとサイドストーリーか閑話を挟んで、新章へ向かいます。
ルシスたちは残留決定。本当ならこの章限定出演のはずだったんだけど、中々絡ませやすそうな感じがしたからね。‥‥‥ベスタの影が怖ろしく薄くなりそうだが。
ついでに彼らの魂魄獣も後日にきちんと出演させます。‥‥‥一応忘れていたわけではありません。




