#88
頼もしい相手がいるんですよ
SIDEカグヤ
「‥‥‥なるほど、魅力が効かなくなるような薬品なら『ネイゼーカキ』という薬で対処が可能なはずだ」
「どのような薬ですなのですかエリザベス兄上?」
「簡単に言えば、超・強力浄化剤だね。ただし浄化作用がすごすぎて付与していた魔法や作用を高めていた道具などの効果まで消してしまうんだよ」
「ふむ、材料ならこの間お前が創り出した金色の花畑にある花々を使えばいいだろう。あれ自体が強力な毒を浄化する作用を持つと聞くし、ついでに今卒業研究用の栽培作物の中から材料となり得る様な薬草を渡しておくよ」
「ありがとうございます、スイレン兄上」
現在、カグヤは己の兄たちのところへ赴き、集まって事情を説明していた。
マッキーナとか言う魅了垂れ流しの爛れた生活を持つ女の話をして、そいつがこの国に訪れようとしており、その魅了する作用をどうにかしたいと相談したところ、兄たちは弟が言う事だから快く賛同して協力を約束してくれたのである。
‥‥‥まぁ、そもそもこの兄たちは兄たちで同等な実力者だけどね。
シグマ家の長男であり、次期当主とされているエリザベス兄上は薬剤に関してはカグヤと違って専門的な知識をこれでもかと学んでいるので、すぐに何が必要なのかが理解できて、調合することができる。
新薬の開発もしており、国王の胃薬の新薬をも作っているそうな。
ついでに禿げ防止剤とか言う、一部ではかなり需要がありそうな薬品も製造しているらしい。
今度豊胸剤とかを創り出す予定らしいけど、それはそれで血を見る争いが起きそうな気がするので、慎重になるようには忠告したけどね。需要高そう‥‥‥
一方、次男で次期当主補佐とされるスイレン兄上は植物のプロフェッショナル。
在学中にめきめきと実力を伸ばしていき、今では成長し切るのに数十年かかるような木の苗木だろうと、ものの数分であっと言う間に成長させるような事が出来るようになったそうな。
カグヤの魔法「花畑作成」に比べて若干劣るとはいえ、木材資源をより効率的に確保できるようになっているのは十分すごいことである。
このシグマ家の兄たちにカグヤは事情を話すと、兄たちはあっという間に解決案を出してしまった。
「しかしまぁ、話しを聞くにろくでもない人が入ってくるのか‥‥‥」
「どうしてこうも、弟は色々な物事に巻き込まれやすいのやら」
すいません、「巻き込まれの才能」があるからです。
才能の事は兄たちも知っているのだが、それでもここまでよく色々な出来事に遭うのはそう見ないことらしい。
「シグマ家の方に取り入ってくるかもしれないし、注意は必要だろうけど‥‥‥まぁ、そんなに心配しなくても良いかもね」
「どういうことですか兄上?」
「だってね、僕らが魅了されてその爛れたやばい女に付き合ってしまったら‥‥‥」
「母上がいるじゃん」
「‥‥‥ああ、なるほど」
言われてみればそうである。
あの母上が、確実に息子たちをろくでもない方法で魅了するような女がいたら、魅了された息子ともどもこの世から消し去る可能性が大きいからである。
「そもそも機会を与えないように引きこもっていたほうが良いかもね」
「でもそういう場合、ある可能性も考慮しなければならないかも」
「というと?」
「そういう人を魅了して手駒にしているような奴の場合、もうだいぶその話しから予想はできているのだけれども、魅了されないような相手がいた場合、どうすると思う?」
「‥‥‥魅了されないという事は、価値がないという事で何かしらの手段を用いて消し去ろうとしてくる可能性があるという事ですか」
そうカグヤが返答すると、兄たちはうなずいた。
ルシスたちから聞くに、マッキーナとかいうやつは魅了が聞かない女性や男性を奴隷に堕としたりしているそうだから、可能性としてもあり得ない話ではない。
‥‥‥とはいえ、シグマ家を相手にした時点で負けに等しいと理解しているのであれば、そう簡単には手出しを出してこないだろう。
色欲にまみれすぎて、正常な思考ができなくなっている大馬鹿野郎じゃなければね‥‥‥
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SIDEマッキーナ
「くふふふふふ、もうすぐ、もうすぐバーステッド王国の学校ね」
「はい、もう間もなくでございますよマッキーナ様」
馬車の中で、マッキーナは自身の魂魄獣であるデストラーデと交わりながら話していた。
基本的に魂魄獣には生殖能力はないので、人の姿になれる神獣型のデストラーデとはいえ、相手をしても子供ができることはないとされているので、こうして周囲に男たちがいない時には彼が相手をするのである。
主を溺愛してしまっており、彼女に何か間違いがあろうとも指摘をせずにそのまま従う。
マッキーナにとっては都合のいい相手でもあり、有能な執事としても見られていた。
「ワタシから逃げることができないことを知って、おとなしく第3皇子様が加わればいいんですけどね」
「しかし、学校まで追いかけてもし加わらなければどうするおつもりでしょうか」
「そうね、下僕と化した国王に聞いてみたけど、どうも厄介な才能を持っているようで煮ても焼いてもそう簡単にはくたばりそうもないし、どうにかして奴隷に堕としてこき使ったほうが良いかしらね?」
「一国の皇子ですら奴隷にしてしまう‥‥‥さすがの思考ですマッキーナ様」
マッキーナの言葉に感嘆を覚えるかのような声を出すデストラーデ。
「ついでにシグマ家の子息たちもいるようだし、このワタシの魅力に引き寄せられて家その物を手に入れることができれば万々歳よね。まぁ、従うようなことがなければこうだけどね」
首を斬るかのような仕草をするマッキーナ。
自分はすでに他の男性たちに守られており、何があろうとも肉壁にしたりで身を守れるはずだと彼女は思っていた。
万が一があろうとも、マッキーナは自分だけはどうにかして助かることができると信じて疑わない。
‥‥‥ただ、そもそも「助ける」と言うような選択肢が相手にあればの話であればだが。
着実に、自身がどれだけやばい逆鱗に触れようとしているのか、彼女は理解していないのであった‥‥‥。
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SIDEシグマ家:諜報部隊(女性限定版)
シグマ家の諜報部隊はすでに、マッキーナのこれまでの所業や、これから何をしようとしているのかをすべて把握していた。
自分たちが仕えている家の子息たちに何かがあれば、確実にお仕置きでは済まないものを喰らうのを知っているため、必死で探ったのである。
ただ、マッキーナは厄介なことに男性を魅了するような人物の為、念には念を押して諜報部隊の中で女性たちだけが動いていた。
「こちらが彼女が食いつぶしてきた金額の詳細を発見しました」
「奴隷に流された人たちや、それを違法購入し、扱いもひどい貴族たちもついでにリストアップいたしました」
「マッキーナの出自やその魂魄獣についての詳細なデータを入手しました」
次から次へと情報をどんどんやりとりして、てきぱきと必要な情報とそうではない物を仕分けていく諜報部隊。
芋づる式に見つけちゃった他国の貴族との密接な違法な取引や、賄賂などの証拠は丁寧に保管し手後々使用するとして、今はマッキーナについての情報を洗いざらい探すのである。
「魅了を高めるために特殊な薬品を常時使用していることが判明」
「改良版を奴隷化させた者たちに臨床実験したりしているようですが、どれも失敗して死亡させた模様」
「その薬品ですが、調べたところもうじき処方の仕方の間違いによって効き目がダメになることが判明」
「副作用も抑えているようですが、環境の変化により一気に噴き出る可能性があり」
「そうなった場合の対策法も考え、さらなる情報を得るのだ」
「彼女が国外に出ている隙に、半ば洗脳に近い状態となっている国民たちには正気に戻ってもらうための処置を施しておくべきでしょうか」
「施しておきましょう。奥方はすでにこれらの証拠の数々から、マッキーナに対して処分を下すことを決めているようですし、今はどうやって高いところから突き落とすようにするのか、どす黒い笑みで考えているようです」
‥‥‥その言葉に、一瞬ぴたりと諜報員たちは動きを止めた。
そして、処分がすでに決められているだろう相手を思うと、むしろ哀れにも思えてきたのだが、非道の数々を考えてすぐに平常運転へと静かに戻るのであった。
「そういえば、交代まであと10分です」
「メイドとしての合間にやるのはなかなか大変ですね」
‥‥‥人知れず、動いているシグマ家の諜報部隊の女性たち。
普段は屋敷を守るメイドとしても働いているのであった。
‥‥‥あれ?これ既にネタバレに近いような気がするんだけど、どうなのだろうか?
シグマ家の長男次男三男協力及び、諜報部隊によって集められていく情報や証拠の数々。
既に最強の母も動き出していて‥‥‥
次回に続く!
‥‥‥マッキーナは、最強にして最恐でもあるシグマ家に挑んだ勇者となるか、それとも愚者となるのか。
ちょっとは見せ所を与えたいけど、多分無理かな‥‥‥




