プロローグ
新作です!!
・・・・人里離れたとある山奥。
そこに建てられた目立たない一軒家にて、今まさにとある作業が行われていた。
床にはいくつもの魔法陣が所狭しと敷き詰められ、その魔法陣の中心には何かしらの異なる薬品がきれいに備えられて、今か今かと魔法陣の発動を待ちわびているかのようであった。
「・・・・さて、後はこれで終わりでしょうかね」
最後の魔法陣を書き終わり、その女性は一息をつく。
彼女の名前はアンナ・レビュラート。
この世界で最後となる大魔法使いであった。
・・・この世界、実は今日滅びが訪れることを、彼女はある事がきっかけで知ってしまった。
だが人里では、今もなお世界の終わりが来るとも知らない者たちが、飲めや騒げやの祭りをしている事だろう。
なにしろ、この世界が終わるなんてそんな話はそう簡単に信じられる話ではないし、話したところで大抵の場合は異端者のように扱われてしまうことを彼女は知っていた。
・・・まあ、そもそも彼女はそんなことを人に話す気がない、というか話せない。
何せ、今年で三千歳にもなるのだが、極度の人見知りゆえに話すことすら不可能であったのだ。
そのため、こうして人里離れた山奥にこもっているわけなのだが・・・・・・。
何はともあれ、今日でこの世界が滅びることを彼女は知ってから、ある事を決意し、こうして床一面にありったけの魔法陣を用意したのだ。
このままこの世界が滅びるのだが、そんな世界の滅びなんかに彼女は付き合いたくなかった。
そこで、思いついたのが・・・・・自分の魂を、この世界とは異なる、別の世界に飛ばすことである。
この世界以外にもあるという異世界・・・それは、この世界で知られている事実でもあった。
なにしろ、かつて魔王を倒すために、異世界から勇者を召喚したという記録があるからだ。
その記録からこの世界とは違う世界がある事は判明しており、彼女はその異世界へ向けて魂を飛ばそうというのであった。
・・・・ただ一つ、問題があるとすれば・・・飛んだ先で、彼女の魂はどうなるかは不明である事。
何しろ、異世界から勇者を呼ぶようなものはあるのだが、その逆・・・・この世界からその異世界へ行く方法は全く知られていないのだ。
かつての勇者も、魔王を倒した後に帰れない事実を知られるのを恐れた王族が、密かに毒殺をしたという記録もあるのだ。
(・・・まあ、その毒殺に立ち会った私が言うのもなんだろうけどね)
・・・・その詳細な記録を彼女は知っていた。
その毒殺の事実をさらに封じるために殺されそうにもなったので、わざわざこの別の場所にまで移り住んでもいたりした。
伊達に三千歳も生きていない。まあ、その時の王族はすでに滅びてはいるのだが・・・・わかり切っていたぐらい、腐っていたようだしね。勇者というモノがいなくなった時点で、その結末は見えていたよ。
とにもかくにも、彼女は世界が滅びるというその事実を知ってから必死になって研究し、ついに魂だけは別の世界へ飛ばす方法を見つけたのである。
だけど、方法が分かっただけでその先どうなるのかまでは流石に分からなかった。
時間がないと言った方が正しいのかもしれない。
外では徐々に世界の滅亡を告げるかのように空が曇り、あたりがどんどん暗くなっていく。
人里では今頃、この突然のことに驚き、混乱が起きているだろう。
けれども、時すでに遅し。
世界が滅びることに、人々はついていけずに巻き込まれ、滅びていく。
・・・・心が痛まないかと言われれば、流石に嘘になるだろう。
でも、彼女はこの世界に親しい人はいないし、特に思い入れもなかった。
徐々に滅びていく世界に、彼女は何処か寂しげな眼で見ていく。
そして、その光景から目をそらし、最期の魔法陣の上へと彼女は立つ。
魔力を集中し、大魔法使いにふさわしく、膨大な力が集中し、魔法陣に光がともり、魔法が発動する。
彼女自身の魂が異世界へと飛ばされ、この世界の滅びから逃れ、そこで新たな生を受けるのだ。
転生とも言うのだろうけど、どうなるかは不明。
・・・・でも、彼女は思う。
『せめて、次の転生先では暖かい家族に恵まれたい』・・・と。
彼女からの心からの願い、これは受け入れられるのだろうか。
意識が薄れ生き、彼女の魂は異世界へ向けて飛ばされた。
そして、残った肉体は・・・この世界で最後の大魔導士アンナ・レビュラートとして、世界の滅びに従い、崩壊して消滅したのであった・・・・・・・・・・
・・・この人が主人公ではありませんよ?
一応、必要な話しかと思いまして・・・・