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骸骨奇談

 山の中で2人分の骸骨が並んで倒れている。


骸骨A:おい、新入り、お前はどうやって死んだんだ? 雪が解けたらいきなり横にいてビックリしたけど。

骸骨B:あ~。遭難です。

骸骨A:・・・ってことは餓死か?

骸骨B:よかった。「そうなんですか」とか返されたらどうしようかと思いましたよ。

骸骨A:そんなベタなことは言わねえよ。

骸骨B:変な間を取られたんで、来るかな?と。

骸骨A:まあまあ。そんで何の死因なんだ?

骸骨B:いや。餓死ではなく、凍死ですね~。死んだ時は2月だったんで。

骸骨A:寒かったろう?

骸骨B:最初は笑っちゃうくらい寒かったんですけど、途中からはもう・・・。

骸骨A:どんな感じなんだ?

骸骨B:そんなに聞きたいですか?

骸骨A:聞いてみたい! やっぱマッチ売りの少女みたいに幻覚とか見えるのか?

骸骨B:人によって違うんでしょうけどね。

骸骨A:お前は?

骸骨B:見えました(キッパリ)!

骸骨A:おお。見えたか~。大したもんだ。で、何が見えた? 親の顔か?

骸骨B:それが意味が全くわかんないんすけど、どっかのおばあちゃんの顔が。見知らぬおばあちゃん。割と笑顔の可愛い。

骸骨A:・・・親族か?

骸骨B:違うと思うんですよね~。さすがに遠い親戚までは全員、顔を覚えてないんですけど、顔を思い出せるってことは割と近いはずですよね~。

骸骨A:何か深層心理に刷り込まれてたんだろうな。

骸骨B:でも最後くらいはきれいな思い出がいいじゃないですか?

骸骨A:そのおばあちゃんはお前のストライクゾーンから外れてたか?

骸骨B:そんな! 熟女を通り越して老女ですよ。逆に犯罪じゃないですか?

骸骨A:女は死ぬまで女だからな~。

骸骨B:ところで兄貴、あっ、兄貴って呼んでもいいですか?

骸骨A:もちろん構わんさ。その呼び方、好き。

骸骨B:最後のあたり、ギャルっぽい言い方になってましたね。

骸骨A:キャピキャピ感、出てたか?

骸骨B:出てました。正直ちょっとジェラシーを感じました。。

骸骨A:何でジェラシー? よしよし。俺の死に方だけどな、ちょっとグロい話になってもいいか?

骸骨B:ダメです!

骸骨A:完全拒否か! 俺とお前は出会ってまだ2分だぞ!

骸骨B:ではちょっとだけオブラートに包むくらいでお願いします。


骸骨A:よっしゃ。ちょっと抑えた感じで言うとな。俺は街のチンピラだったんだけど。

骸骨B:ってことは兄貴、ヤクザだったんですか?

骸骨A:いやいや。そんなかっこいいもんじゃねえよ。組織から盃とかもらってなかったしな。

骸骨B:流行りの半グレってやつですか?

骸骨A:そういうのともちょっと違うんだよな。それって都会にいるやつだろ?

骸骨B:六本木とかにいそうな感じですよね。

骸骨A:俺、船橋にいたんだよ。

骸骨B:船橋だって都会じゃないですか!

骸骨A:そう言ってくれる? 別に俺本人がほめられたわけじゃないんだが、船橋が褒められるのは嬉しいな。

骸骨B:船橋は絶対に都会ですって。

骸骨A:ごめん。ちょっと話を盛った。正確には西船橋なんだけど。

骸骨B:そっちも都会じゃないですか! 

骸骨A:ありがとう。お前は優しいやつだな。

骸骨B:そんなことないですよ。船橋と西船橋がいいところだってことくらいは誰だって知ってます。

骸骨A:お前とは生きてる内に出会いたかったな・・・。

骸骨B:本当ですよ。

骸骨A:何の因果か、こんな山の中で二人、骸骨になってから出会うなんてな。

骸骨B:そうっすね~。


骸骨A:おっと。死に方の話だったっけな、最近はチンピラとして生きてくのも大変でよ。

骸骨B:社会全体が厳しくなってますもんね。

骸骨A:そうなんだよ。今までやってたケチな回収仕事とかもできなくなってな。松茸を密猟しにきたんだよ。

骸骨B:このあたりって松茸、取れるんですか?

骸骨A:周りは松ばっかりだろう?

骸骨B:言われてみればそうっすね。あれ、松茸って松の林で取れるから松茸って言うんですか?

骸骨A:そうだ。赤松の林で取れるんだ。

骸骨B:そうなんですか~。単純に松茸梅の最高ランクってことで松茸かと思ってました。

骸骨A:ちょっと遅かったかもしれないが、謎が解けてよかったな。この山はあるじいさんの持ち物なんだが、そのじいさんがしばらく前からボケちまってな。

骸骨B:兄貴以外にこの山で松茸が収穫できるのを、知っている人間っているんですか?

骸骨A:多分、いないと思うんだよ。大体、そんな奴がわんさかいたら、俺の死体が白骨化する前に警察に通報してんだろ?

骸骨B:そう言われるとそうですね。

骸骨A:で、一人で取りに来たんだけどな、まさかあんなことが起きるとは・・・。

骸骨B:何があったんですか?

骸骨A:松茸をガンガンとってたら、後ろからガツーンと頭を!

骸骨B:頭、殴られたんですか?

骸骨A:薄れゆく意識の中で、ボケてるはずのじいさんが木刀を持って笑ってるのが見えてな。

骸骨B:それって実はボケてなくって、密猟者をおびき出すための罠だったんじゃないですか?

骸骨A:それはミステリー小説とかを読み過ぎだろ。

骸骨B:しょぼい二時間ドラマくらいならそのおじいさんの設定だけでいけそうですけどね。

骸骨A:しょぼくない二時間ドラマってあるのか?

骸骨B:昔の作品は結構、骨がありましたよ。すみません。そういう意味じゃないですからね。別に今の状況とかかってないです。

骸骨A:わかってるよ。ただ薄れゆく意識の中で見る限り、じいさんはとぼけてたがな。無駄に空を飛ぼうとしてたし。

骸骨B:なるほど。それが死因ですか~。だから兄貴の頭蓋骨にはひびが入ってるんですね。

骸骨A:えっ! やっぱりひびが入っているか、ここには鏡とかないから自分じゃわかんないんだよ。そもそも手も動かないし。あとな、殴られた時点では生きてたんだよ。ひどい重傷だったがな。

骸骨B:そうなんですか!

骸骨A:俺にとどめをさしたのは自然だな。細かく言えば野犬と野鳥だ。

骸骨B:うわー。聞きたくない。

骸骨A:それがお前のときと似たようなもんで、脳内麻薬が出てたからな、まあ半分以上は気絶してたし、そんなに痛くなかったんだ。

骸骨B:不幸中の幸いですね。って不謹慎でしょうか?

骸骨A:いやいや気にすんな。確かに痛覚が残ってたら地獄のような目にあうところところだったがよ。こう、ポワーンと目の前に画像が見えてな。

骸骨B:兄貴も幻覚、見てたんじゃないですか?

骸骨A:確かに言われてみれば、ありゃ幻覚だな。

骸骨B:思い出せてよかったですね。ちなみに何の画像が浮かんだんですか?

骸骨A:何だったっけな~。脳が残ってないから記憶力も薄れてるわ。

骸骨B:骸骨ってのはやっぱりそういうことなんですね。でも記憶がだんだん無くなってくのは嫌だな・・・。

骸骨A:そうだな。だから今日からは出来るだけ、お互いのことについて尋ねるようにしよう。

骸骨B:いやです!

骸骨A:いやなのかよ?

骸骨B:プライベートには立ち入らないでください。

骸骨A:・・・わかったよ。で、次の年にも俺の死体の周りには松茸がワンサカ生えるのよ。

骸骨B:昨年、取れなかったからですか?

骸骨A:それもあるかもしれない。あと俺自身が栄養になってたのかもしんないな~。

骸骨B:兄貴、それはちょっとグロすぎますよ。

骸骨A:すまんすまん。でもくやしかったなぁ。周りは松茸だらけなのに俺は収穫できないし、誰も取りに来ないから最終的には枯れちまうしよ。

骸骨B:心残りですよね。

骸骨A:お前は何か心残りはないのか?

骸骨B:山に来る前に冷凍庫に入っているアイスを食べるかどうか悩んで、・・・結局、食べないできちゃったんですけどね。あれは食べておけばよかった。

骸骨A:何かお前との間に距離感っていうか、温度差を感じるんだけど・・・。もうちょっとバチっとした話はないのか?

骸骨B:まぁまぁ。いいじゃないですか。

骸骨A:口論してもな、しょうがないか。

骸骨B:そういえばさっき先輩が犬とか鳥に食い荒らされてる時に、

骸骨A:お前、さりげなくひどい表現を使ってるぞ。あと急に先輩に呼び方が変わったんだけど。

骸骨B:何か幻覚が見えたって話でしたけど。

骸骨A:俺からの指摘に対しては無視なのか・・・。

骸骨B:何の幻覚だったんですか?

骸骨A:ちょっとずつ思い出してきたんだけど、おばあちゃんだな。

骸骨B:ちょっとマネしないでくださいよ~。

骸骨A:してねーよ。大体、幻覚を見たのは俺が先だ。

骸骨B:でも発表したのは僕が先じゃないですか、パクられる可能性はありますよ。


骸骨A:しかし俺のほうのおばあちゃんも誰なのかな?

骸骨B:それこそご親族の方では?

骸骨A:違うんだよな~。

骸骨B:世の中の人って死ぬ前後の幻覚を見るときに、かなり高い確率で知らないおばあちゃんを見ちゃうんじゃないですか?

骸骨A:それは違うだろ。

骸骨B:でもこの場にいる人間に限って言えば、確率100%ですよ。

骸骨A:そうだよな~。

骸骨B:霊界からのメッセンジャーなんですかね?

骸骨A:おばあちゃんが? だから優しそうなわけ?

骸骨B:でも怖いおばあちゃんって普通に怖い女性よりも怖いじゃないですか?

骸骨A:そうだな。まあ結論はおいおい出そう。

骸骨B:時間はたくさんありますしね。

骸骨A:ヘコむからそれは言うなよ・・・。


骸骨A:骸骨になっちゃうとお腹って減らないんだよな?

骸骨B:そうっすね。

骸骨A:やっぱりカロリーを使わないってことは、補給しなくっていいってことなのかな?

骸骨B:上手くできてますよね。

骸骨A:動けない状態でお腹が空いたら、もうどうしようもないんだろうけど。

骸骨B:そうですよ。

骸骨A:昔、刑務所に入ってたことがあるんだけどな。

骸骨B:おぉ。兄貴のそういう自慢が聞きたかったんですよ。

骸骨A:よせよせ。そんな大した話でもないし。

骸骨B:何をやって捕まったんですか?

骸骨A:まあ、・・・喧嘩みたいなもんだ。

骸骨B:みたいなってことは、喧嘩じゃなかったんですか?

骸骨A:あんまり突っ込むなよ。男には一つ二つくらい謎があったほうがいいだろ?

骸骨B:そうですよね。我々は色々とむき出しになってますからね~。

骸骨A:それは言うなよ・・・。で、ムショの中って読む本をリクエストできるんだけどな。

骸骨B:好きな本を読めるんですか?

骸骨A:一応、買えるんだよ。いろいろと知識は仕入れられるわけだ。

骸骨B:そうなんですか~ 勉強になります。

骸骨A:学んだとしても使う機会がないのが惜しいけどな。

骸骨B:本当ですよ。

骸骨A:みんなはエロ本とか買うんだが、俺は当時、無性に食べたかったパンについての本を買ったんだ。

骸骨B:兄貴はパン派だったんですね。

骸骨A:パン系が大好きだったな。シャバにいるときはパンチのチンピラのくせに『クイニーアマン』とかよく食べてた。

骸骨B:めちゃめちゃ可愛いじゃないですか! 女子ですね、兄貴。頭はパンチパーマだけど。

骸骨A:で、待ちに待ったパンの本が届いて、それをむさぼるように読んだんだが、結局のところ、腹が減るばかりでな~。

骸骨B:そうですよね。

骸骨A:翌朝の朝食で出たコッペパンがまた全然、味がしなくてな~。

骸骨B:落差が激しいですね。

骸骨A:でも手元に本があると、無意識に開いて食い入るように読んでるんだよ。

骸骨B:それって、何の禁断症状なんですか?

骸骨A:出所したらすぐに古本屋に売っちまったけどな。

骸骨B:愛憎半ばするってやつですね。

骸骨A:それで話を戻すが、今まで食べた中で一番うまかったものって何だ?

骸骨B:一番ですか? 

骸骨A:難しい質問だろ?

骸骨B:ヨウカンですね。

骸骨A:早いな! あと地味だな!

骸骨B:僕が凍死する寸前にポケットに入ってたやつなんですけどね。

骸骨A:最後の食事か・・・。それは思い出深いだろうよ。

骸骨B:あれは甘かったですね。じゃあ兄貴のほうは何なんですか?

骸骨A:俺はやっぱりあれかな、『クイニーアマン』 特に出所し立てですぐ食べたときのやつ。

骸骨B:兄貴、どんだけクイニ―が好きなんですか!

骸骨A:お前、軽々しくクイニ―とか言うなよ! もっと尊敬しろ!

骸骨B:それはすみません。チンピラだったっていうから、もっとこう焼肉とかの話しかな~っと勝手に想像してたもんで。

骸骨A:焼肉って、あれはうまいか?

骸骨B:おいしいですよ。嫌いだったんですか?

骸骨A:俺はベジタリアンだったからな。

骸骨B:チンピラだったのに? それとも新種であるネオチンピラですか? 鉄砲玉ぴゅ~ですか?

骸骨A:チンピラは肉を食わなきゃいけないルールなんてあるのかよ?

骸骨B:ないですけど。チンピラなのに全く迫力がないじゃないですか、主食はクイニーアマンだし。

骸骨A:主食とまでは言ってないだろ!



骸骨A:そういやお前、一人で登山に来たのか?

骸骨B:違うんですよ~。ぜひそこを聞いていただきたいんですけど。

骸骨A:どうしたんだ。

骸骨B:ネットでパーティーを集めたんですけど、10人の。

骸骨A:ネットって、インターネットのことだよな。

骸骨B:そうです。そうです。初めて会う人たちと。

骸骨A:ってことは、まさか初対面の奴らと雪山に?

骸骨B:そうなんですよ。みんな雪山登山の経験者だってプロフィールには書いてあったんですけど嘘ばっかりで。ほとんど初心者だったんですよ。

骸骨A:そりゃあ、最悪の展開だな。

骸骨B:しかもひどいことに、僕が寝ている間に食料とかテントとかを全部持って、みんなはどこかに行っちゃったんですよ~。

骸骨A:それはほとんど殺人じゃないか! お前、周りに一体どんなひどいことをしたんだ?

骸骨B:何もしてないですよ。

骸骨A:何もしてなくてその扱いだったらお前、どうするんだよ?

骸骨B:あっ。・・・ひょっとしてあれが原因かな?

骸骨A:何か思い出したのか?

骸骨B:あまりにメンバーが情けなかったんで、やけになって酒を飲んじゃったんですよ。夕食時。

骸骨A:まあ心情的に仕方がない部分はあるな。で何をやったんだ?

骸骨B:「俺、王様ゲーム」です。

骸骨A:何だそりゃ?

骸骨B:普通はくじで選ぶじゃないですか?

骸骨A:そういうルールだからな。

骸骨B:でもその時は王様にずっと僕がなり続けるっていう。

骸骨A:お前、すごい男だな。ってことは、周りに無茶な命令を出したのか?

骸骨B:かなり出しました。だんだんと思いだしてきました。しかもそのゲームを夜9時から朝方までやってました。

骸骨A:そりゃあ、お前・・・、復讐されるよ。

骸骨B:それでもひどくないですか? もし僕がいなかったらあのパーティーはあのテント場まで絶対にたどり着けませんでしたよ。全員遭難してたはずですよ。

骸骨A:でもお前がいなくても帰れたんだろ? 多分。

骸骨B:・・・まあそうですけど。僕はここで死んじゃってるんでみんながどうなったかは正確に不明ですけどね。

骸骨A:それもそうだな。

骸骨B:できたら全員、死んでてほしい。

骸骨A:・・・

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