妹と出かけた先は・・・
妹に連れられ、休日にもかかわらず聖痕学園に行くことになってしまった。
「は、初音! 俺、まだ停学中なんだけど・・・」
「大丈夫ですわ、お兄様!わたくしにお任せになって!」
「お、おう」
不安は拭えないが妹の言うことに間違いはないだろう。
何たって妹だ。
ハイスペックな妹なのだ。初音の言うことに間違いはない。
廃スペックな俺とは違うのだ。
妹は勝手知ったる校内を歩いて、馴染みのない一角まで行く。
理事長とか理事とか学長がいる場所。
理事長室と応接室、理事用の会議室、それに大学と大学院の学長室。
聖痕学園の高等部兼中等部、初等部、幼稚舎の校長(幼稚舎は園長)室はそれぞれの職員室の近くにあるのでここにはない。
「は、初音? ここって・・・」
「大船に乗った気持ちで安心なさって、お兄様。理事長が今回のことを取り上げてくれましたのよ」
「理事長って、初音・・・。お前、どうやってコンタクトとったんだ・・・?」
「持つべきものは親のコネ、ですわ」
良い笑顔で妹は言う。
初音、お兄様はその笑顔が黒く見えるんだが気のせいだろうか?
「コネって、ハッキリ言ったら駄目だろ?!」
「向こうもコネを使ってお兄様を停学になさったのだから、目には目を、歯には歯を、ですわ」
「初音。ここは法治国家だから。法律を放置しちゃいけないから」
「ハンムラビ法典も歴とした法律ですのよ、お兄様」
「それ、日本の法律じゃないから。どうきいても、外国の法律だから」
「フフフ。さあ、行きましょう」
妹はザ・悪女としか見えない含み笑いをして、理事長室の扉を優雅に叩く。
「理事長。太刀原 初音、太刀原 凪、参りました」
「入りなさい」
「失礼致します」
妹は音を立てずに扉を開け、お手本のようなお辞儀をする。
俺も初音にあわせてお辞儀をする。
確かに俺は頭は良くないが、身に着いた習慣で完璧なお辞儀には自信がある。
一応、裕福な家の長男として育てられたからな。
妹が扉を閉める邪魔にならないよう、傍に退き、室内に目をやると趣きのあるローズウッドの書斎机の背後に親父とお袋の間くらいの年齢の男が座っている。
その男はよく見知った人物だった。
「在原のおじさん・・・?」
「今は理事長として此処にいるから、理事長と呼びなさい、太刀原君」
「あ、は、はい。理事長」
「さてと。今日、何で集められたのか君たちはわかっていると思う。始めに言っておくが、皆、私と面識があるから依怙贔屓にはならないのは理解しているね」
在原のおじさんしか目に入っていなかったが、ヒロインちゃん(仮)とその取り巻きたち(別名、高等部の生徒会役員の野郎全員と生徒会顧問教諭)も室内にいた。
彼らも代々、聖痕学園に通っている家柄だろうから、親やら親戚が在原のおじさんの知人であってもおかしくない。
在原のおじさんの顔くらいは知っているはずだ。
それを知っていてわざわざ念を押す在原のおじさん。
親父同様、嫁にデレデレしてヤニ下がった顔しか見たことはなかったから、初めてまともな顔を見たと言ってもいい。
「今回のことは非常に嘆かわしい事態だ。教師や特権のある生徒による職権の濫用。それによる将来ある生徒の経歴への瑕疵。まったくもって、不愉快極まりない。それに君たちは子ども同士の問題に親まで巻き込んだね。太刀原を潰そうとして自分の家が潰される危険性は気付いているのかな? 馬鹿なことをしたものだよ。今の太刀原の当主がどれほど怖い人物か知らなかったとはいえ、――」
「親父はただのロリコンじゃなかったのか・・・!」
「お兄様!」
「太刀原君。ちょっと黙っていてくれるかな?」
「はい!」
「太刀原君は誤解しているけど、太刀原君のお父さんは敵にまわしてはいけない人物だということを親御さんたちは君たちに教えなかったのか? それとも連携して太刀原を潰す機会を逃さなかったのかな? 彼は以前も気に障ったからって奥さんの実家を潰したくらい、他家を潰すのに躊躇しない性格なんだぞ?」
親父、お袋の実家潰してたのか?!
何やってんだよ?!
気に障ったからって、怖すぎる!!
導火線が短すぎるぞ!!
さっき話していた親父から他家を潰すのに躊躇しない素振は一切なかった。
ごく普通のいつもの親父だった。
お袋のことで惚気ている、ただのロリコンだった。
だが、これを聞いてしまったからには、ただのロリコンだったほうが良かった・・・。
俺は在原のおじさんの言葉に背筋が寒くなった。