停学中の俺と親父の休日
「♪~」
いい歳しているのに、俺の親父は気が若い。
会社が休みの今日は鼻歌交じりに菓子作りをしている。と、言うのも、お袋が親父の作ったお菓子が大好きだからだ。
一周りも年下の妻の為に休日に菓子を作る親父。
会社の人間には見せられない姿だ。
ボウル片手にピンクのエプロンを付けて菓子作りをしているのに絵になるほど良い男だけど、一周りも年下の妻のいる親父はロリコン・・・。
我が父親ながらロリコンだと思うが、ここまで尽くしている姿を見ていると純粋にお袋のことが好きなんだな~と思う。
歳の差は有り過ぎるけど。
「親父。機嫌良さそうだな?」
「ああ」
「どうかしたのか?」
「身の程知らずな奴らがやっと静かになったから、これで母さんとゆっくりできる」
いつもお袋とベタベタしているのに、今更、ゆっくりとできることを喜ぶなんて変な親父だ。
「ごちそうさま」
俺は呆れてそう言うしかなかった。
「お前にもそのうちわかるようになる」
「う~ん。そう言われてもな~」
「気になる女の子はいないのか? 父さんは母さん一筋で余所見する気は微塵もなかったが、お前はそうじゃないだろう? その子に格好良いところを見せたいとは思わないのか?」
お袋とは一周りも違うから、親父、あんた一体・・・。
幼女を見染めた真性のロリコンが実の父親だとは知りたくなかった・・・。
心の中でロリコン呼ばわりしていたが、こんなこと、知りたくねーよ。
だいたい、グラビアアイドル真っ青な母親と妹がいて、それ以上の美人にもお目にかかったことはない。
それなのに女に興味持てるか?
「ほっとけ! 初音に面倒みてもらうからいいんだよ!」
「妹に面倒みてもらってどうする、凪」
親父は溜め息を吐く姿も絵になる。
「初音のほうが頭も良いし、出来が違いすぎるんだよ。適材適所っていうだろ?俺には太刀原を継ぐとか無理なんだよ。初音が継いで、俺はおこぼれの恩恵を受けるのが性に合ってんだよ」
「情けない! 奮起とかしないのか、お前は? トップに立てなくても、何でそこで支えようとしない?」
「親父。俺だって自分のことはわかっている。俺がいくら努力しても空回りするか、初音の足を引っ張ることしかできないんだ」
「やってみないとわからないじゃないか。やって後悔するのと、やらずに後悔するのは違うんだぞ? それだって、日々貪欲に力を求め無ければ叶わないことだってあるんだ。それを性に合わないの一言で切り捨てるな」
「んなこと言われても・・・。俺、親父にもお袋にも、ホント外見だけじゃなくて、中身まで似てねーもん・・・」
「凪。父さんはお前が父さんと母さんによく似ていると思う。元々、今の父さんたちがいたわけじゃない。色々あって、今の私たちがいる。その色々がなかった頃にお前は似ているんだよ。聖痕学園は治安が良いからいいが、初音だって女の子だ。身体を鍛えているわけでもないから、肉体面では男に敵わない。その時にお前は何と言うんだ。襲われて心身共に傷ついた初音に『初音が負けることでもあるんだな』と笑って言うつもりか? いつも笑っている為にはそうしていられるだけの力と行動が必要なんだぞ。兄として足りない部分は確かにあるかもしれないが、弟妹を気にかけるのを放棄したら何が残る? それでも兄を名乗れるのか? 名ばかりの兄でいいのか?」
「・・・」
親父やお袋が今とは違う?
俺と似ていた?
そんなこと考えつかない。
生まれた時から何でもできたとしか思えない親父たちだぞ?
それに初音が男に襲われる?!
妹が男に襲われるかと思うだけでも耐えられない!
初音を襲いたいと思わない男(家族を除く)はいないはずだ!
あんなに美人で、芸能人になっていないのが不思議なくらいなんだぞ?!
・・・ナイスバディだし。
!!
何で今まで気付かなかった?!
全世界の男を絶滅させないと妹が危険に晒されたままだ!
と言うことは、俺が人類最強の男にならないと妹が守れない。
ああ、初音を守らなくては!
妹を守る為に俺は何をしたらいいんだろう?
「お兄様。ご一緒して頂きたい場所があるのですが、よろしいですか?」
思い悩んでいる俺に、いつの間にか現れた妹が声をかけてくる。
この世界は妹にとって危険に満ちすぎている!
そんなことに気付かなかったこれまでの俺ならともかく、今の俺は妹を一人で出掛けさせるなんて無謀なことはさせない!
役に立てなくてもお兄様が逃げる隙ぐらいは作ってやるからな、初音!
「勿論! これからはどこへ行くにも、俺が付いて行って守ってやるからな! 初音、今まで気付かなくて悪かった!」
妹は一瞬、キョトンとした顔をした後、微笑んだ。
親父はドヤ顔だったが、それは無視した。
「? そう言って頂けて嬉しいですわ、お兄様」