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灼熱

私にとって夢とは重要な過去を思い出す時間だ。私は陰陽師に記憶を消された。だが、その記憶が夢として思い出している。この前は田舎の寂れた駅のホームで、美しい雪景色の真下、一人の女の子と出会う夢を見た。おそらく揺るぎない私の真実としての記憶だ。


 私は母親と根絶などしていなかった。母は私を生んだ後に、陰陽師機関に引き戻されて、私と父親は記憶を消された。しかし、絶花と私の年齢差はわずか三歳。人間が自我を芽生えさせ、過去を記憶として持つのには三歳では説明にならない。きっと、私はもっと母親と関わった時間があったはずなのだ。


 それを思い出すためには睡眠時間をもっと大切にする必要がある。私は絶花との旅の帰りの電車で睡眠を取った。そこで……また新たな記憶が取り戻せた。


 「温羅うら……」


 灼熱のようなオレンジ色のかみひげはライオンのタテガミのようにボサボサになっている。鋭い目と鋭い牙。ガタイの良い身体つき。身長は4メートルで、左手には細い金棒を持っている。間違いなくこいつは温羅うらだ。説明がなくても直感で分かった。


 あの店員が温羅が『夢に出る』能力があるという言葉を私は忘れていなかった。別にこうなることを想像出来ていたわけではないが、この現象を理解はできる。


 「安心しろ。夢の中では人殺しも出来はせん。それ以前に拙者は気に食わない女を食い殺したのであり、無差別に女を殺していたのではない。だが、反論しようにも釜の中でなぁ。あの空間は思ったより自由がないんじゃ」


 いや、人を鍋に入れて食べている時点で駄目だと思う。そして一人称は『拙者せっしゃ』なのかよ。天気予報の時に出した釜から聞こえた声と全く同じ声だ。だが、やはり声のトーンは低くなっており、悪の鬼という風格を感じさせる。


 「占いの続きとは?」


 「それを説明する前に……この空間はなんだ?」


 この景色を説明するには難易度が高い。この前のような雪景色ではないのだ。


 いわばここは遊園地。メリーゴーランドやジェットコースター、観覧車にコーヒーカップなどのアトラクションが立ち並ぶ。全体的にピンク色の色が目立ち、カップル向けのデートスポットというよりは、子供向けのテーマパークというイメージである。噴水の周りには可愛らしい熊やパンダの乗り物があった。


 テーマパークはどこでも騒がしい。気分を高揚させる楽しげな音楽が鳴り止まない。落ち着いて温羅からお告げが聞きたかったので、正直に言って邪魔な音声なのだが、夢の中のBGMまで操作はできない。


 「拙者の時代には考えられぬものであった」


 「昔の人って恋愛しか娯楽が無かったって古典の先生が言っていた気がする。まあいいや、改めて私に占いの結果を伝えに来てくれたってことでしょう? 神社とかお寺とかと違ってイメージが食い違うけど……そんなに気にしないで。さくっと話して見てよ」


 温羅はピンク色に装飾された地面のコンクリートに胡座をかいて座り込んだ。同じ目線に立つべきだと考え、私も地面に正座で座り込んだ。


 「随分と気前がいいな。自分の運命や行く末など、もっと気を乱す物だと思うが」


 「その心配なら起きている時間に済ませた。最悪な未来へ一直線なのは覚悟がついている。私に必要なのはその未来を勝ち抜く対抗策。それが欲しいの」


 「それは残念だったな。占いの結果は『測定不能』。拙者には貴殿は到底測りしえない」


 「えぇ、ここまで焦らしておいて収穫なし!!」


 無音だったのは測定不能だったからなのだろうか。それにしても、そんな曖昧な言葉で私は納得できない。


 「貴殿は拙者の理解を遥かに超えている」


 「なによ、人を人間じゃないみたいに言わないで」


 「いや、貴殿は人間なのだ。それは間違いないはずだ。人間特有の魂の波動は感じられる。しかし、陰陽師としての妖力の波長がまるで感じられない」


 「感じられないって……。そんな事は私が一番に分かっているわよ。陰陽師じゃないのに、式神を持てている。妖力が無ければ本来できないことが出来る。妖力が無ければ防御出来ない攻撃を、いつの間にか防御できている。まるで私の体の妖力が不透明みたい」


 「その表現も違う。不透明なら無色なだけで『実在』はしているのだろう。だが、貴殿の妖力は存在していない。まるで刀剣のない鞘だけの刀。なのに切れ味抜群という奇怪な現象だ。そしてその刀は剣が透明なのではなく、存在しないのだ」


 私の体に起こった異常は……あの党首様には理解の範疇にあった。しかし、私にも絶花にも分からない。ついでにこの温羅にも分からない。


 「でも……どうして私に会いたいと思ったの? 占いの結果を伝えようにも、想定不能なんだしさ。現れても意味ないじゃない」


 「いや、私が君に会いたいと思ったのは別の理由だ」


 温羅は目を瞑って、手を合わせた。


 「君なら拙者の封印を解けるかもしれない。拙者を助けてくれ、この通り反省したのだ。貴殿の式神にして欲しい」

すいません

ちょっと思ったよりも進まなかった

まだ噂のネタ回収じゃないです

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