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無音

 超能力……確か虎坂習字と戦った時にも同じようなニュアンスの言葉を聞いた。鬼が発明した能力を奪ったのが、『鬼神スキル』なるものだと。相手の動きを静止させたり、御札を固めて剣にしたり、相手と自分の立ち位置を入れ替えたり。


 「温羅は身長4メートルでかなりの怪力だった。更には首を切られても死なない生命力がある。それに加えてもう一つ。『変身能力』を持っていたんだ」


 ……変身能力……だと……。それは聞き捨てならない。


 「奴は雉や鯉に変化したらしい。ただ、吉備津彦も変身能力の持ち主でな。相手より強い生物に変身することによって、温羅を上回ったらしい。雉なら鷹、鯉ならみたいにね」


 …………丁寧に力説する店員さんの話を片耳に、私はある奴について考えていた。柵野眼である。レベル3の悪霊はこれまでの悪霊と違い固有の能力を持っている。奴の場合は変身能力の極地。それによって奴は、私や夜回茶道に変身してみせた。寸分違わず、ほぼ完璧に。まあ完璧過ぎるが故の弱点が、悪霊としてのキャパシティまで一定時間失うことにあるが。


 「お姉ちゃん……もしかして……柵野眼について考えているの?」


 「…………」


 変身か。さながら特撮ヒーローや魔王なども使う言葉だ。本当の自分を隠すために。皆に自分の正体を悟られないために。敵を混乱させるために。普通の人間は自分以外の何者にもなれない。変装するのが限界だ。それを実在する別の物に成り代わろうなんて。隣の芝生は青いではないが、何でも他人のものはよく見えるものなのか。


 「心配しなくても変身能力を持つ妖怪は大勢いるよ。狐や狸なんて皆持っている。だから温羅と柵野眼の接点はないよ。心配しなくて大丈夫」


 絶花が私の肩に手を置いて優しく微笑んでくれた。私の心の動揺を察してくれているのか。


 「おっ焚き上がったみたいだぜ。そろそろ音が鳴る」


 ★


 音は鳴らなかった。


 いや、誤解しないで欲しいのは、湯気は出ているのである。店員が中身を確認してみたが、お米はしっかり焚けていた。何より恐ろしいのは……。


 「お姉ちゃん。なんでそんなに怖い顔をしているの? 結構いい音が出ていたじゃん」


 「俺も何回かこの儀式をやったけど、割といっつもこんな音だぜ。平均だよ、平均。安心していいってお姉さん」


 絶花と店員のオッサンの言っている意味が分からない。いい音? 平均? 私には全くの『無音』にしか聞こえなかった。この儀式は音の鳴り具合を本人が勝手に判断してよい。だが……私には何も聞こえなかった。


 「確か音が小さければ不運だったよね」


 じゃあ『無音』は? 全く音が聞こえない場合はどうなるのだろうか。


 私は絶花が添木生花に言っていた言葉を思い出した。


 『運勢が無くなったら死ぬ』。


 人間は見えない神の手やご加護や先祖代々の力に守られている。それは無意識に人間を守っているものであり、それをないがしろにしてはならない。


 これはどういう判決なのだろうか。私が巫女服を着ていなかったから曖昧な判定になったとか。そもそも陰陽師としての妖力を宿していなかったからとか。そんな頭の中に言い訳を思いつくだけ思い浮かべる。それでも恐怖が払拭できない。


 「お姉ちゃん……どうしたの?」


 「……こりゃあマズイな。もしかしてお姉ちゃんには小さく音が聞こえていたとか? 俺がこいつを使ってから、こんな経験はないんだが……」


 小さくどころか、全く聞こえていない。私は膝が落ちた。目の前が真っ白になり、呼吸が荒くなる。私は知ってしまった。異能の世界は存在すると。鳴釜が音を発しない場合は、本当に悪運なのだと。私はもうじき……死ぬ。


 これは……死の宣告なのか。


 「倒さなきゃ……早く柵野眼を倒さなきゃ。殺される前に殺すの。そうすれば……私はきっと……」


 「お姉ちゃん……」


 私は素人ながら陰陽師の世界に足を突っ込んだ。大妖怪とも悪霊とも党首とも関わり、私が極めて異常な存在だとも知った。だから自分の命の危険は薄々に感じていた。特にこの京都の旅に行く前には、かなりの不安感があった。うつむいて声が出せない。どういう結果だったと報告する勇気すら起きない。


 殺される……。


 今、顕著にそれを理解した。


 「お姉ちゃん。はい、これ」


 床に垂れ込んで両膝を曲げて動かない私に、絶花が八つ橋を差し出した。何の真似だ、と言おうと思ったが、顔をあげるとそこには優しそうな絶花の顔があった。


 「チョコバナナ味だって。最近は味がかなり増えたよね。この店で買った。お勘定は済ませたよ。店内で食べていいってさ」


 絶花が……両膝を落として屈伸し私に目線の高さを合わせた。


 「お姉ちゃん。人間は甘いものを食べるだけで幸せになるんだよ。ほら」


 半分くらい無理矢理に絶花が私の口の中に八つ橋を入れた。


 「美味しい」


 涙が溢れてきた。悲しみだろうか、不安からだろうか、絶花の優しさだろうか。この涙のわけは私にも分からない。


 「これでお姉ちゃんは不幸じゃない。不運でもない。お姉ちゃんは俺が守る。絶対に俺が守ってみせる」

 あと、2話くらいでかなり核心に迫ります。

 ネタ回収ではないですが、

 あぁ、そうだったんだぁとは言わせて見せます。

 勿論、すべてのネタバレにはなりませんが

 温羅についてはかなり正しい文献で書いています

 ちゃんと調べて書く太刀風居合

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