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絵馬

 

 私はさほど陰陽師だの妖怪だの興味はない。バトル漫画は好きだが、それはフィクションの話であり、そこで得た知見も創作の範疇が多い。だから、不思議な釜に想いを寄せて駆け寄るような真似はしたくない。そもそも高校生の私が、こんな古臭い物に興味を馳せることじたいどうだろうか。


 だが……。


 「お姉ちゃん。見ていこうよ」


 甘い匂いもしないのに、私の弟は興味を示している。そりゃ絶花は現役の陰陽師だから仕事上の関係で、こういう話には耳を傾けるのかもしれないが。私としては……。なんて思いつつも無下に帰ることも出来ないのである。


 「この妖怪ができることは天気予報だけじゃない。この妖怪は吉凶や幸運不運を見定める能力もあるんだぜ。この妖怪は室町時代の百鬼夜行絵巻にも乗っている妖怪なんだが、イラストには絵馬もついているんだ」


 絵馬というのは神社や寺院に祈願するとき、あるいは祈願した願いが叶ってその謝礼をするときに寺社に奉納する。確かに吉凶を左右するものかもしれない。それにしても吉凶と言えば……。


 「絶花の化け鯨って相手を『不運』にさせる能力だったよね」


 「正確には厄災を押し付ける能力だけど。もしかして、俺の運勢とか気にしている? 化け鯨と直接に契約している、俺の運勢はどうなっているのか? みたいな」


 「えぇ、まあ」


 化け鯨は捕獲不能の妖怪。絶花が苫鞠陰陽師機関の中でも最強でいられるのは、まさしくこの式神の恩恵だ。出雲最強の妖怪をどうやって契約したのか、それとなにをもって操れているのか。


 「うーん。あんまり考えたことが無かったなぁ。まあ運気は正常だと思うよ。俺は自分を不幸せなんか思ったことないし。甘いものを食べていれば幸せだから」


 店主は蒸篭せいろ(竹や木を編んで作られた蒸し料理用の調理器具)を用意して、お米を中に入れた。


 「えっと、中に鬼が封印されているですよね。危険なんじゃ……」


 「大丈夫だよ。むしろ彼は喜んでいるから。この儀式は女性でしか出来なくてねぇ。巫女がするのが礼儀なんだが、まあこれは簡易版だし、学生服で問題ないでしょ。女装した男がやっても成功するくらいだから」


 「って、私!! 大丈夫なんですか? どうすればいいのか……」


 「それを釜まで持って行って上に置くだけ」


 いざ蒸篭を持つと緊張する。今までの出来事で妖怪という生き物には、散々に怖いおもいをさせられた。店員さんに乗せられる形で始めたが、正直乗り気ではない。怖いという気持ちがどうしても先行する。とは、いっても動作は釜の上に置くだけ。すぐに終わってしまうのだが。


 「炊き上がるまで待つ。その炊き上がる強弱・長短等の音によって吉凶をはかる。強く、高くなれば運気は良好の証だよ」


 封印されている妖怪が鬼だと聞いて怯えていたが、どうも間抜けな妖怪である。鳴釜なりかまと言ったか。あまりにも呆気ないというか、妖怪じみていない。まるで神秘のアイテムみたいな扱いだ。何もしていないのに、勝手に火がついて燃え上がったのには驚いたが。


 「なぁ、おっちゃん。俺も鳴釜神事なるかましんじに関して知らないから質問だけどさ。逆に運気が悪いと音が小さかったり、低かったりするのか?」


 「音を聞いた者が、各人で判断するのが原則だ。自分にとって大きければ運気良好。小さければ運気最悪。それだけさ」


 なんじゃそりゃ。結局は自分の心の持ちようじゃないか。こんなに神秘的な超常現象を起こす妖怪の占いなのに、肝心の結論は自分次第なんて。


 「なんか期待して損したな。天気予報とか占いとか、胡散臭い鬼だとは思っていたけどさ」


 「いや、この中にいる温羅うらっていう妖怪は極めて凶暴だよ。婦人をさらって、釜で茹でて食べていたって話だから」


 巫女だけが儀式出来ると聞いて、スケベな妖怪なのかとか頭の中でマイルドに考えていたが、どうやら私の想像を遥かに超えるクレイジーサイコパスだったか。というか、そんな危険な妖怪で私は占いをしているのか。


 「お姉ちゃんも一度は子供の頃に読んだことあるでしょ? 『桃太郎』。あの鬼ヶ島の戦いの元ネタが、吉備津彦きびつひこの温羅退治伝説なんだよ」


 「えぇ!! 桃太郎ってノンフィクション!!」


 「桃から生まれたとかは嘘かな。でも、お爺さんとお婆さんが桃を食べて若返って子供を生んで、誕生したのが吉備津彦。吉備団子ってのは、主人公の真の名前からの由来だよ。あと、三匹の家来である犬、猿、雉もモチーフは人間の愛称。三人とも家来の武士。あと、『鬼ヶ島』ってのは完全な嘘。本当は『鬼ヶ城』っていうお城を根城にしていたの。子供が分かりやすいように、色々と改変されたんだね」


 ちょっと待って。じゃあ私たちの目の前にいる妖怪って。いや、その中に封印されている妖怪って。


 「桃太郎の敵だった鬼の大将だよ」


 そんな危険な妖怪を京都の町に、無作法に置いておくな!!


 「鬼ってのは見た目の凶暴さとは裏腹に『技』を磨く連中として有名でな。温羅うらにも沢山の超能力があったんだぜ」

鳴釜神事なるかましんじの話ですが、

女装でいいって話はガチです

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