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若造

 私は今すぐにでも私の身に起こった危険の説明をして欲しいのだが。相手は党首様だ、いくらフレンドリーに接してくれていると言っても、下手に無礼な態度は取れない。残念だがここは引き下がろう。


 「二人共、俺の直属の部下になってくれないか?」


 「「へ?」」


 透き通った声ではっきりと、目を瞑りながら右手をあげて言った。


 「この通りこの城はスッカラカンだ。いくら外見を誤魔化しても中身がない。ここにいる妖怪も最低限しかいない。人員スタッフは1人もいない。護衛が欲しいとは思わないが、さすがにスタッフ0は問題がある」


 確かに……この現状は困っているのだろう。生活にしくそうだし、何より陰陽師を率いる党首として締まらない。


 「そっちの弟君は地方でも最強格の陰陽師だ、率先力としては申し分ない。それとお姉さんの方は……女性の力が借りたいんだ。妖怪ではセンス的に問題がある部分もある。このお城で家政婦みたいな仕事をして欲しい。もちろん、報酬は弾むぞ、金だけは無駄にあるんだ」


 元本部にいた陰陽師は全て大妖怪に殺されたのだろうか。他の地方に呼びかけて人員派遣を呼びかければ人は集まりそうな気がするのだが。


 「陰陽師としてこれほど光栄なことはない。本部勤務なんて陰陽師の中でも超エリートしか着任できない役職。地位も名誉も給料も大幅アップ。もう出世コースまっしぐら。棚からぼた餅ですな……二か月前までなら」


 絶花がにやっと笑った。本部勤務が価値あるものという感覚は私にも分かる。どんな企業だって本社勤務が一番に決まっている。それも党首様の護衛兵なんて強者である証としては、これ以上のものはないのだろう。だが、絶花はそれを受け入れようとはしていない。


 「でも……スタッフは集まらない」


 「あぁ、俺に人望がないからだ」


 私には分からない。たった一ヶ月でここまでの再建を果たした、陰陽師としての腕っ節も立つこの男をどうして認めようとしないのか。絶花が党首として認めているくらいだ。私には理想の次世代の党首だと思う。それをどうして……。年齢の問題だろうか。彼がまだ若造だからという理由で嫌煙されているのか。


 「陰陽師って機関は本当に古き悪しき伝統があってだな。俺は初代の安倍晴明あべのせいめいから見て、分家の分家のそのまた分家なんだ」


 分家……それでも阿部清明の血筋を受け継いでいるならば問題ない、条件は満たしていると感じるのだが。


 「子孫を絶やさない為に兄弟とかを島流しにして秘密裏ひみつりに生活させるなんて、江戸時代前までにはよくある話だった。俺の一族もそういう類だ。だけど、地方の陰陽師の爺様方は頭が固くてな。ここの直系の子孫しか認めないとぬかしやがる」


 だが、その人はもうこの世にはいない。他界されてしまった。ここは不本意でも、分家の人間を党首として迎えるしかない。


 「だから給料なんぞいらないからストライキって話になっている訳だ。俺を新しい党首と本心から認めてくれているのは……緑画高校の理事長くらいかな」


 私たちを電車を使って襲ってきた学校。添木や絵之木のいる学校か。


 「党首様って……その緑画高校の出身ですよね」


 「あぁ。出身というか、あの学校の在学生だよ。理事長は新時代の思想を受け継ぐ俺こそが党首に相応しい。丁度、時代の移り変わりとして、直系の子孫から逸れるのが好ましいと考えている」


 緑画高校の理事長はこの党首様さえも自分の思想の形に加えているのか。自分が頂点に立たずして暗躍する。その理事長とやらも極めて危険人物と見ていいだろう。


 「俺も新時代の党首様に賛成ですよ。あなたしかいないならば、あなたがやるべきだ。どうしようもないことをウジウジ語っても解決しませんから」


 「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」


 「でも思想まで変えていこうってのはどうなんですかね。その理事長とやらにいいように操られているって現状は」


 またこの子は言いにくいことをズバっと言ってしまう。卑屈で根暗で卑怯で裏表がない。この子はそういう子なのだ。でも、ここは黙っていて欲しかった。相手は陰陽師の現党首だ、粗相は許されないだろうに。


 「それから反発する為に、緑画高校からの人員を拒否しているだろ。俺は地方の陰陽師を攻撃することも反対なんだ。俺はそんな経営方針をもっていない」


 党首様は机を両腕で叩いて勢いよく立ち上がった。


 「妖怪の中には危険な奴も存在する。何もかも『信頼関係』の一言で済ますのは間違っている。必要なのは秩序と規則だ。これからの時代、レベル3を打破する為の妖怪へのより一層の研究は必要になる。『鬼神装甲』という戦い方も学ぶことになるだろう。でも……『仲良くする』……その言葉は安易過ぎだ」


 党首様は絶花よりの考え方の持ち主だった。これで絵之木への解答を言い表すことが出来る。妖怪と仲良くする、党首様はそれを全面的には認めてはいない。


 「って……意地張っているから独り身の状態なんだよな。つまり今は陰陽師には俺という党首はいても、はっきりとそれが認知されていない。つまり……陰陽師という歴史である1000年の中で初めての『戦国時代』に突入しているわけだ」

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