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風靡

巨大な虎を目にした時や、悪霊を目にした時もかなり汗が噴き出すように恐怖を感じたが、あの障子の目は本当に腰を抜かした。


 「あ~、そんなに人を襲う妖怪じゃないんだがな。そんなに怖がらなくてもいいよ。こいつは見た目に反して小心者だ」


 「ううう、怖がられている」


 目目連、碁盤の目のように障子に目玉を張り巡らせている妖怪。空間転移の能力を持っており、無数の増殖するのも特徴だ。固有の結界をつくって、部屋を生み出すことも可能。まさにお城を最速復旧するには最適な妖怪だといえる。


 そんな便利妖怪である目目連だが瞬きをしながら悲しそうに涙目を浮かべている。そんな目をされては私が困るのだが。まるで私がいじめたみたいな空気になっているではないか。


 「ちょっと待ってください。もしこのお城が、その妖怪によって出来ているとしたら……昨日私は妖怪の上で寝泊りしたってことに」


 「うん、安全でしょ?」


 ケロッとしている絶花にイラっときたので、取り敢えず腕を頭に回して締め上げてみた。どうしてそういう大事なことは先に言わないの……と、言おうと思ったが、言えば私がここで寝ないと言い出すのを恐れたと、すぐに解答が思い浮かんだ。


 「お姉ちゃん、妖怪のことを怖がりすぎだよ。そんなに人間に害なす存在じゃないから。特に式神になっているなら尚更だよ」


 頭では理屈が分かっていても、体が受け付けないってあると思う。


 「それではもっと別の話を聞こうか。給料を受け取りにきただけじゃないんだろ? 確かお姉さんが体の中に妖力がない『適正なし』だったのに、なぜか式神と契約できた。それと……柵野栄助の娘だったか」


 その柵野栄助という悪霊が分からないのだ。一世を風靡した最強の悪霊であり、レベル3の悪霊の生みの親。そして私たちが問題として直面している柵野眼の母親。こんな概要的な部分は話は絶花から聞いた。私が知りたいのは……もっと真に迫る話である。


 「これは被害者である私の直感なんですけど。柵野眼の出現と私の体の異変は関係性があると思います。なにか心当たりはありませんか?」


 「ある。というか、俺は君がそうなった理由も大体の察しがついている」


 わかるのか……私がこうなった理由を。党首様は私から目線を逸らして書類の束を見つめ直した。さぞ、嫌そうな顔を浮かべて考え込むように。


 「お姉ちゃんを助けたいんです。俺からもお願いします。教えてくれませんか?」


 「柵野栄助については教えてもいい。もう死んでしまった奴だからな。でも……お姉さんの身体に起こった異変への説明だけは出来ない。俺には口が裂けても言えない。…………知らないほうがいい」


 え? 教えてくれないのか。どうして? 今の私は悪霊から命を狙われている身なのだ。護身に関わる情報なら一つでも多く欲しい。だからわざわざ京都まで出向いたのだ。それを原因の根幹となってくる部分を教えてくれないなんて。


 「柵野栄助は最強の憑依能力の持ち主だった。肥大させた悪霊の波長を次々に付与していき、妖力を持つあらゆる媒体をレベル3に変化させていった。唯一、悪霊の世界の『社会』を齎した奴だ」


 レベル3の悪霊になると、そのオプションとして『自我』が芽生える。つまりその体に魂が宿るという意味だ。今までの単純な動きではなく、意思を持った行動を取れるようになる。陰陽師の行動を先読みして意味深な行動まで取り出す。人間の最大の武器は脳みそだと言うが、まさにそれがあるとないとでは、かなりのみぞを生むのだ。


 柵野栄助はそれを生み出して束ねた。社会集団として組織した。多くの悪霊を従えて統率し、陰陽師を……人類を……滅ぼす行動を取った。とある優秀な陰陽師の活躍により、その大事件は未然に防ぐことができたらしい。


 「レベル3の概要も既に絶花から聞きました。あなたが柵野栄助を討伐するにのにも関わっていたことも」


 「あぁ。俺は柵野栄助を後回しにするために、この目目連を使って隔離空間に封印して、リーダーを失った組織をあるお方が壊滅させた。そして柵野栄助じたいも消え去って、数匹のレベル3を残し、日本にまた平和な日常が戻った。……ここまでが俺の話せる範囲だ」


 何が私にとって重要なのか分からない。そのレベル3を倒した『あるお方』を紹介して貰えるのか、それとも党首様が柵野眼を封印してくれるのか。はたまた……私はこの時点で党首様に見捨てられているのか。


 「柵野眼がそのレベル3の残党だっていうのは分かりましたが、それがお姉ちゃんと関係があるのですか?」


 絶花の質問に党首様は苦しそうに首を縦に振った。


 「柵野眼は私と関係がある……これってもしかして私が陰陽師から消された記憶の中に埋まっているんじゃ……」


 その次の言葉を言う前に……言わせて貰えなかった。党首様がわざとお茶をこぼした。机の上にのっていた飲みかけの煎茶を、湯呑を掴んで引っくり返すようにお茶を落とす。その下にある書類に染み込むように……。目的は会話の中断だろう。これ以上は精神的に耐えられないという意志の現れだ。私も絶花も目を丸くして、唇を紡いだ。


 「安心しろよ。その柵野眼って奴は……君を殺そうなんて思っていない。奴の狙いはもっと別だ。だから……この話は止めにしないか。本当にこれ以上は言えないんだ。以前の戦いにも少し関わるんだが、これはトップシークレットでな。本当に申し訳ない」


 私と絶花は仕方がなく……首を縦に振った。


 「そうだ。俺からも君たちに話があるんだよ」

明日は……どうして相良十字が地方から指示されていないか、みたいな話です。

ちなみに今日の話ですが、一部を読めばきっちり分かります。

でも……凄く時間がかかるらしいので、こっちだけ読んでくれて大丈夫なように心がけます。複雑な設定ですいません。

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