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札束

 一気に緊張感が高まる。目の前にはパソコンと業務用デスクの上の書類の山に囲まれて、なにやら忙しそうに紙に書きなぐっている高校生がいた。こっちに気が付くと手を止めて椅子に座り直した。


 「秘書の方かな」


 「いや、あれが今の陰陽師機関の党首、相良十次さがらじゅうじ様だよ」


 高校生って若い。もっと貫禄あるお爺さんだと思っていた。中性的な顔立ち、目つきが悪いのが気になるが、至って一般人という印象だ。もっと着物を着ていたりとか、仰々しいピアスとか、闇のオーラとか纏っている人だと思っていたが、本当に表現しようがないくらい特徴がない。


 「来たか。昨日の件はお疲れ様。俺からも謝罪しておくよ。元同級生の馬鹿が迷惑をかけたな。理事長に反省文書くように言っといたから。お前たちもあんまり気を落とさないで」


 まるで普通の学生同士の会話のように、抑揚なく坦々と要件を語っている。


 「いえいえ。こちらこそ助太刀、感謝します」


 「ん? 感謝されるアレはないぞ。あれは俺の不始末でもあるからな。緑画高校に蔓延る旧陰陽師襲撃の歯止めをかけられない。睨みが効いてない俺の落ち度だ」


 敬え、崇め奉れ、礼を尽くせ。そんなことは言わない。絶花のことを部下だと思って会話していることは分かるが、どうも違和感がある。


 「さっそくだが、悪霊討伐の支払い金だ。銀行に振り込んでもいいけど、折角来たなら手渡しがいいよな。現金払いといこう。受け取ってくれ」


 そう言うと、引き出しから……札束を取り出した。


 「100万円入っている。封筒に詰めるから待ってくれ」


 「ちょ、ちょ、ちょっと待って!! そんなに!?」


 「あぁ、そっちの女性は一般人だったか。レベル2の悪霊だろうと一匹仕留めるのには数ヶ月かかる。この報酬は妥当なんだ。倉掛絶花、大儀であった」


 「ありがとうございます。資金調達完了!! お姉ちゃん、この金でパーっと京都の甘味処かんみどころを練り歩こう!!」


 「没収!!」


 「あぁ」


 たかが中学二年生の餓鬼に裸銭はだかぜにを渡す馬鹿がいるか。これ以上絶花の教育に悪いことをされては困る。陰陽師の常識など知らないが、100万なんて金をそのまま手渡すのが非常識だ。


 「これは生活費にします」


 「お姉ちゃん……お姉ちゃん……ううう」


 ウルウルした涙声で返却を懇願する絶花だがここは譲れない。ここにきて絶花と私の身長差が生きた。私のほうがまだ背丈は上だ。いくら背伸びして手を伸ばしても私の手の金は奪い取れまい。


 「ははは。確かに保護者に渡すのが筋だな。失敬、失敬。その金はお姉ちゃんに渡すことにするよ」


 「ふぁぁ!!」


 それにしても驚きだ、絶花が金の話をする前から基金を用意しているなんて。それも顔色一つ変えず、あんな大金を手渡した。人員はいないようだが、資金はあるのか?


 「あの……すいません。このお金ってなにかマズイ商売とかで稼いだとか……」


 私の質問に党首様は笑顔で答えた。


 「まさか、ちゃんと俺たちと繋がっている国のお偉い様方に頂いたのさ。国を守る防衛代として。平和はタダじゃないんだぜ。だが、地方の連中が旧本部の瓦解でパニックになっていて、俺が率いる新政権を認めねぇ。そんでもって給料を受け取りにこない。だから金だけはたんまりあるって話しさ」


 この高校生、今の話が本当なら只者じゃないかもしれない。瓦解した本部を二週間で立て直し、国のトップの秘密機関と金に纏わる打ち合わせと取り決めを完了させた。そもそも国全体の陰陽師がパニックなのに、本部の存在を絶やさないように迅速に地位を築いた。あの夜幢丸という妖怪を利用した強さもなかなかのものだったが、この男は陰陽師の先導者に相応しいかもしれない。


 「この城の修復はどうだ? 二週間でだいぶマシになっただろう。なにせ城は完全に更地と化して、ただの跡地だったからな」


 「え? そんなに破壊され尽くしてたんですか?」


 「あぁ、とある悪の大妖怪が暴れまわってな。町中が塵芥ちりあくたになりやがった。どうにか討伐だけは成功したけど、奴が残した爪痕は大きい。元はこの本部の町には巫女の服屋や武器の製造工場。御札の研究施設や療養のための医療機関まで揃っていたんだ。それが全部まとめて破壊された。住んでいた人間も皆殺しになった。御門城は完全暴落。ほんとに痛手とかいうレベルじゃねーよ」


 夜幢丸の手のひらの上からこの町の景色を見たが、確かに悲惨なものだった。瓦礫の山、散乱する瓦。時々見かける血が飛び散ったあと。復旧はまだまだ完了はしていない。


 「でも凄いですね。二週間でお城を建てちゃうなんて。人もいないって言っていたのに」


 「あぁ~お姉ちゃん。それはちょっとカラクリがあってね」


 「えぇ……」


 すると……私の正面に見える壁がまばたきする間に障子へと変わり、その白い紙の中から……気味の悪い目玉が……。


 「ひぃっ!」


 私は驚いて尻餅をついてしまった。この手の化物には耐性がついたつもりだったが、これはあまりに背筋が凍る。


 「な、なによ……そいつ」


 「俺が党首になる前から契約している式神で、名前は『目目連もくもくれん』。この城の99%はこいつで出来ている」

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