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因縁

「その柵野眼という奴は……悪霊なのだろう。ならば、陰陽師の妖力で倒せるはずだ。幽霊列車を乗っ取っているというのならば、属性は『火』。まさにお前達が最も相性の良い属性だろう。『蒲牢』と『化け鯨』が結託して叩けば、倒せるのでは?」


 正確には幽霊列車は乗っ取られているわけではない。柵野眼が夜回茶道になり代わりに当たり、独自にコピーを作り上げたのだ。


 「どうして夜回と入れ替わっていたなら、気がつかなかったの」


 「あいつ、いつも通りだったじゃないか。というか、幽霊列車が悪霊に乗っ取られていたなら、俺たちの誰でも気が付くだろ」


 この三人は柵野眼についてあまり情報を持っていない。悪霊でありながら、妖力を察知できなかったことへまだ疑問を持っている。


 「それが奴の……悪霊としての能力なの。私はあなた達と違って悪霊の基本知識はないけど、柵野眼については幾分か知っている。あいつは……何者にも変身する能力があるの」


 「変身? そんなものは悪霊なら誰でも持っている能力だろ」


 虎坂習字の間抜けな質問に、絶花が苛立ちを覚えながら答えた。


 「奴は普通の悪霊のレベルを超えている。レベル3なんだ。だから奴は、自分の妖力をもコントロールしている。俺たちに気がつかけなかったのもそれが理由だ」


 三人の顔がまた引きつった。レベル3なんて普通の陰陽師が束になったって倒せない。そんな相手と対峙しているのだから。悪霊の手の平で踊らされて、内乱を企てていた自分たちを呪っているのだろう。この小隊はまんまと利用されたのだから。


 「それで、さっきの答えだけど……俺とお姉ちゃんが一緒にあいつを止めるのは……難しい。化け鯨と蒲牢は絶賛喧嘩中というか、因縁の相手だし。さっきも言ったが、お姉ちゃんはともかく、俺の妖力も底を尽きかけている。そして何より合体必殺技とか……俺の領分じゃねぇ」


 さっきまで座り込んでいた絶花が、苦しそうに歯を食いしばりながら立ち上がった。睨みつける目標は、幽霊列車の残骸である。


 「お姉ちゃんは左の後部の方ね。俺が前頭部を攻撃する。ここは役割分担でいこう。俺の残りの妖力を全て注ぎ込んでも片方を止める。どうせ死ぬんだ、精一杯に死ぬ気で足掻あがくさ」


 添木生花の作戦を完全に受け入れなかったわけではないらしい。爆発物が二つあるなら、役目を分けようという魂胆だ。


 「分かった。私と蒲牢でどこまで頑張れるか分からないけど……」


 もう一回御札から蒲牢をフルサイズで取り出す。絶花も畳んでおいた化け鯨を引き出した。2体の巨大な大妖怪が相まみえる。巨大な龍と、巨大な魚。


 「話は聞いていたぜ、お姉ちゃんよぉ。あいつを吹き飛ばせばいいんだな」


 「えぇ、お願い。蒲牢」


 私が深呼吸をして精神を統一させていると、添木生花が絶花の肩の上に手を乗せた。


 「なんの真似だ」


 「俺も水属性の陰陽師だ。俺の残りの妖力をお前に注ぐ。俺たちもここから逃げられない。だが、死ぬのはゴメンだ。お前たちに協力する以外に助かる道はない。相棒を殺され不本意だが、男には信念を曲げてでも守らなければならないものがある。俺の仲間をこれ以上、殺されてたまるか」


 化け鯨と蒲牢。この二人が並んで戦っているように、また添木生花も因縁の相手との共闘である。だが、ここで全員心中するよりも、この危機を切り抜けてまた再戦した方がいい。そう思ってくれた。


 「俺も手伝うぜ。属性は違うけど、しにはなるはずだ」


 「ならば私はお姉さんの方を手助けしよう。彼女は技術面で心配がある。私がアシストしよう」


 虎坂習字が絶花のもとへ、絵之木ピアノが私のもとへと駆け寄った。

 もうすぐこの章が終わります。

 長かった~~~

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