英気
どこにいった? 夜回茶道……。
確かに私と絶花は、化け鯨で空中を浮遊し、戦っている真っ最中の窮奇と夜幢丸の間を掻い潜って、助けを求めている夜回茶道を助けた。後方の車両で助けを求めて片手を伸ばしている彼女を私は見ている。それは先に救出に向かっている添木生花、絵之木ピアノ、虎坂習字も知っているはずだ。化け鯨の背中に乗って、一緒に地上に降りたはずなのに……。
「ねぇ!! あなた達の誰でもいいから夜回茶道に連絡をとって!!」
私の突然の大声にびっくりしながらも、添木生花が携帯を取り出して、電話をかけた。
「あいつ……トイレでも我慢していたのかな」
「仮にそうでも、私たちの誰かになにか言ってから行くでしょ」
最初は『そんな深刻そうな顔しなくてもいいじゃん』みたいな顔をしていたのに、会話の途中で二人の顔が深刻になった。添木の携帯から甲高い声が聞こえる。
「おい、夜回!! どこへ行った?」
「あぁ、生花さん。お久しぶりです。どこへ行ったって、そりゃ京都の街をブラブラと楽しんでますよ~」
間抜けな声がこの場にいる全員に響き渡る。
「楽しんでいるだと!? 俺たちの状況がどういうものか分かっているのか!!」
「え? 戦いの前の束の間の休暇ですよね?」
さっきまで車両に乗ってこの戦いを見物していた人間の台詞とは思えない。彼女もリーダーが窮奇に殺害される瞬間を見ているはずだ。今までの三連戦だってモニターで見ているはず。それを……こうも平凡に何事もなかったように。
「いやぁ~、私だけ先に京都に行くのもなぁ~って思ったんですよ? でもリーダーが先に本拠地に行って、美味しい物を食べて英気を養ってきなさいって言ってくれて。お言葉に甘えさせて貰ったわけですよ。皆さんももうすぐ緑画高校から到着する時間ですよね。駅までお迎えに来いとかですか? やだなぁ~。これから足湯温泉なのになぁ~」
「お前……」
添木がそれ以上の声を出せなかった。周りの連中も同じである。
つまり……今まであの列車に乗って、アナウンスや駅員の真似事や、幽霊列車を操ったりや、モニターで戦いを観戦させていた『夜回茶道』という人間は、真っ赤な偽物だったということである。
「どうしたんです? 添木先輩? 電車の中で具合でも悪くなりました?」
「またかけ直す」
一方的に電話を切った。とてもリーダーが殺害されたとは言えなかったのだろう。もうこれ以上は平和な世界の住人と関われなかったのかもしれない。
「この能力……変装……そんなことを意味ありきでする奴は……私の知っている限りではひとりしかいない」
そう、『妥当!倉掛百花!』と目標を掲げていた奴。おそらく窮奇の復活を早めて私たちに嗾けさせたのも奴だろう。そう思うと突然の鎌鼬のパワーアップも説明がつくのだ。鎌鼬に『悪影響』を及ぼしたのだ。
レベル3の悪霊の残党にして、『変身』を司る能力者。
「柵野眼……」
奴だ、奴で間違いない!!
「お姉ちゃん。一難去ってまた一難なんだけどさぁ」
絶花が私の腕の裾を引っ張って、こっちを見るように仕向ける。
「あの地面に落下している二つの幽霊列車の死骸。あれにも柵野眼の妖力が混ざり込んでいるよねぇ。…………マズくない?」




