暴露
窮奇がよろめいて空中を闊歩する。苦しそうに呻いている。
「ところで党首様はどこにいらっしゃるのでしょうか。さっきから姿が見えないんだけど」
「あの夜幢丸とかいう妖怪の中じゃないかな。鬼神装甲の要領で自分が鎧を纏うがごとく、妖怪と一心同体になっているのかもしれない」
妖怪と仲良くする。その結果の副産物として手に入った鬼神装甲。その妖怪を実在する武器に変化させて戦う戦法。それが妖怪と合体しているのならば、本当に妖怪と人間の絆の境地と考えられる。
「逃げるな……あいつ」
「えぇ?」
今まで不貞腐れて黙っていた絶花が声を発した。それもまた、マイナス思考を伴うものを。
「逃げるんじゃないかな。1体1のガチバトルなら勝てないけど、単純な追いかけっこなら窮奇の方が一枚上手だろう」
「でも、それでOKなんじゃない? あの先駆舞踊という人の仇討ができないのは駄目かもしれないけど。それでも……追い払えるならそれで充分じゃない。窮奇の驚異は倒せないくらい強大。ならば、追い返せるという結果を良好として捉えるべきだと思う」
八番隊の全員が俯いた。例え嘘つきで偽善者だったリーダーだったが、それでも彼らにとっては善良な優しいリーダーであっただろう。彼らの反応からして人格者だったのだろうから。虚言が世界を救うのは、よくある話である。真実だけをホイホイ言う人間が、必ずしも良い人間ではない。
「逃がしてなるか……党首様の加勢に回るぞ」
絵之木が苦しそうに立ち上がるのを添木と虎坂が止めた。
「あんな上空で戦っている相手に、飛行手段がないんじゃ攻撃に参加できないよ。それにお前も俺たち二人も傷だらけだ。ここは見守るしかない」
「それにまだ逃げ出すと決まったわけじゃないだろう。党首様がきっと逃げようとしたって、奴を仕留めてくれるはずだ」
添木が細い目で絶花を睨んだ。逃げ出すとか、そんな現実味のあるマイナスな懸念を暴露したことへの不満だろう。今の言葉は絵之木に言ったようで、絶花に言ったのだ。この中で唯一飛行手段を持ち、ほぼ無傷で万全な状態で、加勢に入れるだろう絶花に。同じ組織の人間ではない、陰陽師機関として根で繋がっているわけでもないから、直接的に『お前は行けよ』とは言いにくいだろうが。
「お姉ちゃん。飛行手段がある可能性を持つ人間はもうひとりいるでしょ。夜回茶道。あの駅員のコスプレ女なら、まだ飛行手段になる式神を持っているかもしれない……」
確かに……幽霊列車だけが式神ではないだろう。………あれ?
★
「夜回茶道はどこ?」




