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甲冑

 夜幢丸は図体が大きい。特撮映画の大怪獣の大きさだ。一方、窮奇の大きさは一般の虎よりか遥か凌駕するが、それでも夜幢丸には到底及ばない。だが、それは窮奇にとって好条件だ。夜幢丸がいくら仰々しい刀を振っても当たらない、躱すのは容易い。一方窮奇側の攻撃は当て放題だ。あれだけ大きければ、外すほうが難しい。


 「夜幢丸の攻撃が当たらない……」


 本調子ではないとはいえ、元より風神としての一面もある窮奇は、風……すなわちその場にある空気そのもの全てが隠れ蓑である。こと空中戦において、窮奇が不得手にあるはずがない。


 それなのに……それなのに……窮奇が押されている。


 「四凶の一匹が聞いて呆れるな。やっぱりリハビリが足りていない。そもそも陰陽師を従えた式神と、野良の妖怪が戦うのでは、雲泥の差がある。おそらく使い手が優秀なんだ」


 私が声に振り返ると、そこには地上に降り立っていた、添木生花と絵之木ピアノ、それと虎坂習字の三人がいた。声の主は絵之木ピアノである。


 「窮奇の最大の敗因はパートナーである陰陽師を失ったことだね。いくら復活のためとはいえ、自暴自棄になってパートナーを殺しては意味がない。窮奇はあと二百年くらい復活に時間がかかっても、それでも復活を先送りにすべきだった」


 「あなた……目が覚めたの……」


 「お陰様で。安心してください。私たち三人とも敗北を認めていますから。命の恩人に、恩を仇で返すような真似はしません」


 その視線の先には、いかにも気に入らないという顔つきで不満そうにしている絶花がいた。この人たちを助けるのは、絶花としては不本意だった。そんな我が弟に煽るようなことを言わないで。できれば放置してあげてて。


 「どうやって窮奇に攻撃を与えているの?」


 「気流を読む技術だ。妖力が不安定な状態で空中を闊歩していたら、その流れが皮膚に伝わった瞬間にある程度の位置を逆算できる。それと防御に関しては、あの巨大な甲冑が素晴らしい。まさに鉄壁だ」


 窮奇の鋭い牙も爪も、その鎧の前には無意味である。どこを狙い撃ちしようと、致命傷には至らない。まさに、小物を狩る強者。そんなイメージしかわかない。


 「夜幢丸の能力は相手の視界を真っ黒に染め上げて、自分以外の全てを見えなくすることだ。奴は真っ暗闇の中をさまよっている。だから窮奇はその暗黒空間に激しく動揺している」


 視界を奪う能力か。自分が見えてしまうのでは意味がないと思うが、きっと夜幢丸の単純な強さという特性でいけば、何ら問題はないのだろう。自分だけを見せて、環境を奪う。無理やり戦いに引きずり込んで小細工をさせない。疲労した窮奇がフラフラして、墜落してきた幽霊列車の後部に激突した。この時に本当に窮奇は視界を奪われているのだと、はっきり理解できた。


 ちなみにここまでの説明を、添木と絵之木だけでおこなっている。絶花はおそらく知識はあるだろうが、イジケテ声を発しない。虎坂の場合は純粋に知らないのだろう。

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