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年頃

 「お姉ちゃんは殺されても死にそうな顔をしていないもん」


 どういう意味だろうか、人をゾンビのように言わないで欲しい。


 「大丈夫だよ。きっと上手くいくって」


 楽観的……ではない。こいつにはいざとなったら、踏み台にして逃げる為の捨て駒がありといったところだろうか。私が、このセオリー無視の暴走野郎を食い止めなくては。不特定多数の誰かが傷つく前に。


 ★


 苫鞠とままり陰陽師機関。そこは田舎の神社という名前ではすまないような、巨大な神社だった。山のそのものが神社と化していて、様々なお屋敷が並ぶ。修行用の滝や一般の人でも利用できる座禅の部屋もあるらしい。


 長閑のどかなイメージとは裏腹に、人の気配は一切しない。人の住んでた形跡はあるのだ。なのに人だけが神隠しにあったようにいなくなっている。この場には元はちゃんと組織として成り立っていた時期もあったのだ。


 「ここが空中分解してメンバーが拡散して只の観光スポットとなった、無様な陰陽師機関の成れの果てでーす。思ったよりも綺麗でしょ。うちは内乱は無かったから」


 「内乱?」


 「あぁ。陰陽師機関はほぼ全ての地方がその母体ごと爆散したんだ。妖怪同士を戦わせて、バトルロアイヤルをして建物とか粉々になった場所もあるって。その隙に悪霊に襲われた機関もあったらしい。ちなみに本部は跡形もなく消し飛んだらしいよ」


 私が思っているよりも世知がない機関だな、陰陽師って。


 こんなに美しい風景の広がる大自然の広がるいい場所なのに。それを捨てて出て行くなんて。元のここで働いていた人は今は何をしているのだろうか。この美しい鳥の鳴く声、木々が風に揺れて擦れる音、滝から聞こえる荒々しい音。全てがこの現代社会に蔓延った毒を洗い流すように、潤していく気分だった。


 「姉君。これから親族様のお来場になります故、本堂の方へ移動しましょう。あなた様は客席からご覧になるだけで結構ですので」


 「お前さぁ、名前は確か唐傘だったっけ」


 「はい、そのようにございます」


 仰々しいやつだ、こっちが息が詰まりそうになる。今は本来の腕や足を隠して、目玉だけがあるモードになっている。この晴れ渡る日に日傘など持ち歩くとは。お嬢様のような気分だ。この桃色の折り畳み傘がいないと危険なので持ち歩かない訳にもいかないだけだが。


 「でも客席って結婚相手を探しに来た連中も座るわけでしょ。高校生が混ざったら嫌な感じがしないかな」


 「いえいえ、そうでもないでしょう。姉君が思っているよりも若年層もいらっしゃってますよ」


 ……本当だ、あの若い集団は大学生だろうか。きっとオカルトが好きな団体とか、肝試し同窓会とかそんな感じだろうか。男女数人で楽しそうにしている。確かに冴えないおっさんや、いかにも婚期を逃した女性が多く集まっているイメージはあるが。


 「それでも私が最年少でしょうね」


 「まあ昨今の男女が結婚を本気で考えている人は少ないでしょうから。だから未練なんか残して『死後婚』なんてする羽目になるのです」


 「まあ昔は今の私の歳くらいで嫁入りしていたらしいからなぁ」


 そんな間の抜けた会話を本堂前の大広間でするのである。結婚式開始までまだ時間がある。まあ結婚式にだって時間がかかるだろう、少しの時間くらいは待ってやるさ。


 話は変わるが、親族の人が喪服を着て歩く姿を目撃した。どんな心境なのか注意深く覗いていたが、あまり楽しそうな雰囲気ではなかった。まるで葬式をもう一度するかのような、そんな感じなのだろうか。それでもあの世の息子、娘の為に遥々ここまで来たのだろう。


 今頃、そんな複雑な気持ちの親族の人々に、私の弟は何か都合の良いことをベラベラと喋っているのだろうからな。親族の方は金を払って騙されているのだ。これは『結婚式』ではない。悪霊の処刑のイベントなのだから。


 「それにしても、よくこれだけの人数が集まったよね」


 「えぇ。七十人といったところでしょうか。この中に悪霊に気に入られる人物がいるといいのですが」


 その時だった。背後から肩を叩かれた。悪霊が来たと思い、咄嗟に唐傘を強く掴んで振り返った。だが、相手は悪霊ではない。参加者……それも高校生男子か。私の学校の男子制服を来ている。私は暑さを凌げて動き易い、ワンピースなんて着ているのだが。


 「いや、折り畳み傘と会話するなんて怖い子だなと思って……。寂しいのかなって思ったので、つい……すいません」


 「いいえ、お騒がせしてすいません」


 私ぐらいの年頃も奴もいたのか。私は所詮、弟の付き添いで結婚など興味もないし、そもそも『縁結び』が嘘っぱちだと把握しているのだが。まさか高校生で結婚に心から興味を持って、この場まで来たのだろうか。


 「苫鞠高校の生徒さんですよね。私、あなたを見たことがあります」


 「えっと……本当ですか」


 「はい。私は須合正樹すごうまさき。学年は二年です」


 「倉掛百花くらかけひゃっか。一年です」


 情熱的……というよりは、なにか嫌な感じがした。彼が本気で恋愛対象を探してこの場に来ているのだとしたら……狙われているのか……。

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