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汽笛

 先に絶花は化け鯨に飛び降りて伸ばした私の手をギュッと掴んだ。幽霊列車から飛び降りさせた。高度に恐怖は感じたが、今までの身の危険を考えればまだ耐えられる。それより化け鯨の図体が大きかった為に、地面が全く見えなかった。大きくジャンプすると、簡単に移動に成功した。落りたってみると、化け鯨の背中は意外と水平だった。


 「よし。このまま表から行けば戦闘に巻き込まれるから、幽霊列車の後ろから回って隠れるように脱出するよ」


 幽霊列車の真の姿が目の当たりにできた。今までは内側からしか見えなかったが、こうやって外側から見ると圧巻である。先頭部分には大きな目玉が一つある。煙が立ち込めて全身は真っ赤。まるで生き血のような柄をしている。防音効果でもあったのであろうか、それとも戦闘に集中していて聞こえなかったのだろうか、今になって幽霊列車の鳴らす独特の汽笛が鮮明に聞こえた。


 「幽霊列車が死にかけている。このままだと落下する」


 「お姉ちゃん。好都合だよ。このまま墜落する列車の傍に隠れて地上に下がれば、奴らには気づかれない」


 このままでいいのだろうか。奴らを見殺しにして。奴等は確かに自分の意思で戦闘に望んでいた。全て勝ち星だったとはいえ、それなりに反撃は痛かった。彼らだって陰陽師ならば死ぬ覚悟は出来ているだろう。でも、そんなことを認めていいものか。


 「ねぇ、絶花」


 「駄目だよ。お姉ちゃん。陰陽師じゃないお姉ちゃんが助けたいって気持ちになるのは分かるけど、ここは見捨てていいの」


 私の今ままでの戦いはなんだったのか。添木生花との殺し合いは、絵之木ピアノとの駆け引きは、虎坂習字との口論は。彼らだって自分の正義の名のもとに戦っていた。確かに絶花を殺そうとしたけど、私の命は見逃そうともしてくれていた。


 「お姉ちゃん、助けちゃ駄目だ。それはただの自己満足だ。連中は死ぬべき宿命なんだ。任務失敗、思想に反逆、職務妨害、一般人を巻き込んだテロまがいの電車の乗っ取り。奴らが死ぬべき理由は幾多とある。あいつらが受ける当然の裁きだ。ここで奴らを助けたら……奴らはきっとまた俺たちを殺そうとする」


 そうかもしれない。いや、きっとそうだろう。

 

 でも………。


 「本当のヒーローは誰も見捨てない。例え極悪人でも、テロリストでも、殺人鬼でも、犯罪者でも、スパイでも、悪魔でも魔王でも死神でも悪霊でも。人間が人間を助けるのに、理由なんかいらない。誰かを守りたいって気持ちがあれば、それが…………『どうしようもない悪意』を諌める唯一の方法ではないか」


 昨今の主人公ならば助けないだろう。さぞ裁判官でもなった気取りで、『正当な報いだ』とか、『お前の命に価値はない』とか、『俺はお前を許さない』とか。そんな押し付けがましい自己満足を並べて平気で見捨てるのだ。


 それが最近の人間だ。


 「助けてあげるわよ。その方が格好良いに決まっているでしょ。出てきて蒲牢ほろう!!」

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