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垂直

 バキっと鈍い音を立てて、垂直抗力も虚しく電車が真っ二つになった。上半身も下半身も空中に浮遊したまま静止している。初めは大気圧などで呼吸ができなくなるものかと思ったが、どうやらそこまでの高度はないらしい。上半身側に取り残された私と絶花と陰陽師達。別の車両にいるのは、幽霊列車の持ち主であった、駅員の姿で私たちを騙してこの場に幽閉した張本人である夜回茶道よまわりさどうだけである。


 彼女はこのダメージを察知して、一つ先の車両から顔をのぞかせた。彼女はモニターから、虎がリーダーを捕食した現場は確認していたはずだ。それでもあの場に現れなかったのは、この生物には勝てないと悟り、身を守るためにあえて潜んでいたのである。その彼女が姿を現したということは……。


 「絶花。あの虎はどこ?」


 「おそらくさっきの夜幢丸の垂直切りの餌食だったんだね。腹からばっさり切られたんだと思うよ。まあ死んでなんかいないと思うけど、きっとこの電車にはいないはずだ。空中のどこかにいる」


 そうだ、奴は覚醒するまでは鎌鼬だった。元より風神であるならば、外に投げ出されても問題はないはずだ。翼も生えていることだし。


 「でも助かったよ。これでターゲットは完全に俺たちから夜幢丸へと移った。俺たちはまずここから脱出する方法を考えないと」


 「でも……どうやって降りるの? もうこの妖怪がまともに運転するとは思えないし、敵である夜回茶道には協力を仰げない」


 「お姉ちゃん……マズイかも。もう幽霊列車の妖力が消えた。このまま完全に死滅すれば、空中に静止していられなくなる。つまり……」


 地面に落下する!!


 列車の中がグラグラと振動を始めた。幽霊列車が息絶えたのだ。このままでは身動き一つ取れない。真っ逆さまに地面に激突して、頭とか打って……死ぬ!!


 「折角のチャンスを無駄にするのは嫌だけど……目立ちたくないけど仕方がない。化け鯨を本来のサイズで御札から出すよ!! 浮遊能力もあるから、そのままグライダー方式で地上まで着陸する!!」


 これは賭けだ。化け鯨が大きくなれば、嫌でも窮奇の目に付く。せっかく標的から外れたのに、また身を危険に晒すことになる。それと…………。


 「おい、起きろ!! 絵之木!! 気絶している場合じゃないぞ!!」


 「やべぇ。添木さんと俺は式神を持っていねえ。絵之木も起き上がらないし、仮に目が覚めても、あいつにも飛行手段なんかねーよ。このままだと俺たち三人は……」


 そうだ。添木生花。絵之木ピアノ。虎坂習字。今まで戦ってきた三人を見殺しにすることになる。今ここで私たちが助けなかった、彼らは落下を免れないだろう。リーダーである先駆舞踊さきがけぶようはもういないし、夜回茶道も飛行手段を失った。


 彼女なら何らかの助かる手段を持っているかもしれないが……どうだろうか……。いや……彼女も深刻そうな顔をしている。幽霊列車以外に式神を持っていなかったと考えるのが妥当だろう。


 「絶花……」


 「助けないよ!!」


 私の震える小さい声を振り払うかのように、絶花が言い切った。その頃には既に化け鯨が本来の大きさを取り戻して現界し、いつでも飛び立てる状態にあった。今こうやって見てもかなりのサイズがある。幽霊列車に比べれば見劣りするが、それでも極めて巨大だ。


 「お姉ちゃん。さぁ、俺の手に捕まって!!」

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