意想
「悪神が世界を語るか」
「当たり前だ。世界のあり方を決めるのが神の役目だろう」
「そうかよ、あいにく日本には八百万の神って言葉があってだな。つまりは神様なんかそこら中に存在するって意味だ。だから、お前の信教に乗っ取ることがしない」
「ここから逃げられると思うてか。それともこの私を殺すとでも? 化け鯨と蒲牢が結託すれば、この私に及ぶとでも?」
「いや、だから俺はそういう現実的じゃないバトル漫画思想は嫌いなんだって。『昔、敵だった奴が次は味方になる』とか、そんば展開は嫌いなんだ。ありえないだろ」
相変わらずの現実主義者。現実味の無い理論は全く受け止めようとしない。
「だからお前には勝てない。そして、逃げることもできない。だが、死にたくもない。お前の意想に従ってやったが、受けがよくなかった。もう手詰まりだ……なんて思っているんじゃないのか?」
いや、実際そうだろう。私たちのどこに起死回生の一手がある。
「貴様……どこまで神をコケにする……」
「死ぬまで永遠に……」
★
車両の外。遥か天空。そこには黒い鎧のようなものが映っていた。真っ赤に染まる顔に、いかにも戦国武将のような兜や甲冑を持ち、仰々しい鞘と刀を持つ。窓から覗くその姿は……いささか狂気。だが、私の弟のような人間嫌いの卑屈でもない。あの窮奇とか言う翼の生えた虎の、自分勝手な虚言者肯定の厭らしい化身とも似ていない。
ただの『闘争心』という波長。
「おい、虎野郎。窓の外を見ろ」
「あぁ、今度はなんだ…………なんだあれは……」
そこにいたのは巨大な鎧武者だった。全身が霊界の薄暗さに染まり、漆黒に輝く。その全身から放たれるドス黒いオーラは、幽霊列車の出す煙も、車輪から放たれる微小な火の粉も吹き飛ばした。
「いよぅし! 間に合ったか。やっぱり救援要請を出して成功だったね」
「絶花。あんたやっぱり地元の陰陽師にちゃんと連絡していたのね」
「いやいや、あいつらは助けにこないって言ったじゃん。だから『俺より目上の方』にお願いしたんだよ。助けて欲しいってさ。お姉ちゃんも遅かれ早かれ合う予定だった人だよ」
「それって……」
「そうさ、俺は陰陽師の新しい党首様。今回の目的地にいるであろう『相良十字』様にお願いしたのさ。賊に捕まったから助けてってね。あの巨大な鎧武者は、日本の陰の妖怪『夜幢丸』。あれは間違いなく党首様の式神だ」
絶花は窮奇に対して見逃してもらうために媚を売っていたのではない。どうやら時間稼ぎが目的だったようだ。
「お前、五人とも倒すって言っていたじゃないか」
添木生花の叫びが聞こえた。それに対し、絶花は悪びれもせずに平然と答える。
「倒せるならそうしたかったけど、もしものことを想定して、幾多の予防策を張り巡らせる。プロとアマの違いだ、覚えとけ」




