悪神
この虎にまともに戦えば勝機はない。相手は四凶、中国の中でも無敵に近い妖怪だ。復活した悪神をどうやって沈めればいい。そんなこと、分かるはずがない。狭い空間では逃げられない、この隔離空間で最も最悪な状況になった。
「さぁ、喰らってやるぞ。正直者よ」
「ふむ……じゃあ……俺は辛い物が大好きだ」
…………追い詰められて絶花が何を言い出すかと思えば……。
「俺は友達が欲しい。俺は部下を大切に思っている。俺は貧しい人にお金を寄付したいと思っている。あぁ、早く中学校に行きたい。夏休みの宿題なんてもう完璧に済ませた」
「貴様っ……なんのつもりだ……」
私が思っていることを、窮奇が代弁してくれた。絶花は戦闘では勝てないと悟ったのか、それともまだ不意打ちを狙っているのか。とにかく奴にとって好ましい言葉を発し続けた。
「くだらん。それは貴様が助かりたいという『本心』から出た言葉だ。私が求めるものは、偽るではない。騙すことだ。そんな何の意味もない言葉を並べたところで……」
「そうか。じゃあ人を騙せばいいのか。おい、添木生花。お前が寝ている隙に、お前の財布を盗んだぞ」
「ぬぁ!」
「それと、虎坂……なんだっけ? 腐れ、ブサイク、役立たず、ホストまがい」
「誰のことだ!!」
急に絶花の罵倒が小学生並になった。絶花は悪魔のようなニヤつきで続ける。
「お前が気絶しているうちに、お前のスマホから女の子達に告白メールを全員一斉送信してやったからな」
「お前、なんてことを!!」
「迷惑メール削除!! って今頃、おおごとになっているだろうよ。あと、スマホなら窓から捨てておいたから。感謝しろよな」
「もう取り返しようがねーじゃねーか!! 馬鹿野郎!! 今まで俺がどんだけ慎重に、慎重に、この繋がりを積み上げてきたと思っている!!」
逆上している虎坂は気づいていないようだが、添木生花と私はおそらく気がついていた。
「落ち着け、虎坂。奴の嘘だ。あの窮奇とかいう妖怪へのご機嫌取りだ」
添木は右手にしっかりと財布を握り締めながらそう言った。
「いや、内心では分かっていたんだけどよ。なんか無性に腹が立って」
その気持ちは分からないでもない。虎坂も胸ポケットからスマホを取り出して、無事を確認する。
「まぁ、つまりなにが言いたいかと言うと、俺は別に『正直者』じゃないよ? お前が好きなのは口論の際に虚言を吐く、間違っているものへの肯定だったよな。それは優しさとか、労わりとかじゃない。そこがお前の狂気じみたところだ」
「さよう。弱い者を守るために、虚言の正当化に加担する輩もいるが、私はそうじゃない。私はただ、世の中から正論が罷り通らない世界を目指すだけ」
ただただ自分の趣向を満たしたいがためだけど、虚言の肯定。生粋の下衆だ。絶花とは、また違った形で。
明日か明後日で
あの人が復活!!
(1作に出ていた人です)




