潤滑
「嘘つき?」
私は首をかしげた。心底、嫌そうな顔をしていたと思う。この虎の口調は、絶花とはまた違う理由で腹が立つ。
「正論を吐きつつも心の中ではそうは思っていない。気遣いをしつつも、心のどこかでは叱責している。新時代の陰陽師の方針だって、本当は気に入っていなかった。だが、自分の信念を曲げてまで緑画に加担した」
旧陰陽師と同じ考えかた……おそらく絶花と同じ地方の出身なのだろう。幼い頃から植え込まれて、教育されてきた絶対理念を新参者に否定されて、それを鵜呑みしている人間ばかりではない。絶花のように真っ向から否定している人間もいれば、心では不満に思いつつもなし崩し的に賛同している人間もいる。
「およそリーダーの素質ではない。まさにこいつはチームの潤滑油。話し合いでは司会を務めている。揉め事が起これば仲裁に入る。仲間が傷つけばそれを労わる。掛け声をかけて皆を奮起させる。役回りだけはそうであった」
それはとてもリーダーとしての素質がある人間の行動ではないのだろうか。自分勝手で我が儘で、他人のいうことを全く参考にしない。そんな無茶苦茶な方針のリーダーだって、リーダー失格だと思う。まあ、私の弟のことだけど。暴虐部人にチームを率いることと比べれば遥かにマシだと思う。
「だが、こやつは本心ではそうは思っていなかった。本心では正しくないと思いつつ、罪悪感と葛藤しながら、自分を押し殺していた。人格が高潔な奴は、式神である私にも温情を与えた。私を撫でる自分に憎悪しつつも。そんな奴の感情がワシの私の本当の姿を呼び覚ました」
「鎌鼬が窮奇になったというわけか」
「さよう。もとより半身を失い、風神としてもあんな小動物の姿しか保てない私に、奴は……『嘘をつく』ことで、私を復活へと導いた。『正しくないことをしている』という背徳感が私の肯定的な感情を膨れさせ、『偽る自分を憎む感情』が私を逆撫でした」
虎はとても饒舌だった。今まで長期に渡り能力が回復しなかったのに、ここ最近になって力を得て復活したと。華麗なる復活劇を坦々とした口調で喋っていく。リーダーの死に心を痛めている仲間達の存在を無視して。
「奴はそんな私の復活を予知した。虚言のエネルギーが奴を侵食し、私の復活を抑えられなくなる。だから……自分を偽る醜い自分を演じ続けろ、と。そうすれば、最終的な完全復活はないだろうから……と」
だが、それは叶わなかった。あぁ、俺は生粋の嘘つきだ。奴はそう言った。自分の醜さを認めてしまった。意識を保つことができなかった。そして……封印は解かれた。
「倉掛絶花、貴様は正直者だ。例え思想は腐っていようとも、本心から忠実な陰陽師だ。そして名実共に陰陽師としての本分を守っている」
「褒めているわけじゃあないよな。だって、お前は『虚言』を吐く奴が好きで、正直者が嫌いなんだから」
「そうだ。だからお前を殺す」
昨日はちょっと疲れていて眠りました
ごめんなさい(つд⊂)




