本音
人間は自分が普通の人間だと思いたいらしいが、『普通』だと認定される人間なんか存在しないらしい。どこか人間は可笑しいのが当たり前。それで当然。恥じることじゃない。だから私の弟が飛び切り頭が可笑しいのも、この虎が最悪を呼ぶ四凶に一体で頭が可笑しいのも納得ができるというものなのだろう。
色欲、強欲、嫉妬、怠惰、傲慢、憤怒、暴食。七つの大罪を持ち合わせていない人間などいない。ならば、『闘争心』を『虚言』を『無秩序』を『贔屓』を、持っていない人間などどこにもいない。
誰も横断歩道を渡っていないなら、信号無視してしまう。些細なことで喧嘩になる。自分の好きな野球チームに、つい肩入れしてしまう。誰かを笑顔にするために虚言を吐く。人間が日常生活を営む上で、必要な『柔軟さ』だ。悪であろう、正しくないだろう。だが、完全に正しい人間なんかいない。心の中の闇なんて、今に始まったことじゃないのだから。
「我々のリーダーはとても人格が高潔な男だった。いつも自分を犠牲にして、俺たちに美味しい思いをさせる。危険ごとは真っ先に飛び込んで、俺たちが怪我をした時は誰よりも献身的になってくれる」
「俺の遅刻やサボリも、何回見逃してもらったことか。いつも笑顔で許してくれるんだ。それが本音なんて思っちゃいなかったが、それでいいやつだと思っていた」
添木生花と虎坂習字が啜り泣くように小声で喋った。だが、この静寂とした狂気の空間には、その些細な言葉が耳に入った。私にも、絶花にも、御札の中の蒲牢にも、あの翼の生えた虎にも。添木は腕を顔に当てている、虎坂も悔しそうに俯いて唇を噛み締めている。
「さよう。奴は自己犠牲の極み。まさに正義の見方だった」
「じゃあなんで殺したわけ? お前が悪神だから、気に食わなかったってことか? つーか、お前は鎌鼬じゃなかったのかよ。その設定をこっちが忘れたと思ったら、大間違いだぜ」
また絶花が卑屈なことを叫んでいる。だが、今までの皮肉とは根幹から違う。今までは挑発と戒めの意味合いが大きい皮肉だった。だが、今の虎に叫ぶ声は、まるで……苦しみによる嘆きだ。
「確かに私は今まで『鎌鼬』だった。大陸を渡って自分の身を隠してからというもの、自分で自分を見失った。自分が何者かすら忘れるほどに。だが、あの陰陽師が私を捉えて式神になって、初めて自分に違和感を感じた。奴の呟く嘘に、我は心が揺れ動かされた」
虎が天を仰ぐように首を動かした。
「こやつは根っからの『嘘つき』だった」




