反逆
鎌鼬の変化した大鎌と絶花の式神である唐傘お化けの折りたたみ傘が接しあっている状態だ。これで絶花は能力が発動できる状態。奴の運気を全て奪うことができれば、必ず勝利できる。
これで決まったかな……………。
理屈では絶花の勝利を確信して感じる自分がいる。しかし、懸念の感情がどうしても拭えない。こんな簡単に終わるはずがない、奴だってこれまでの戦闘でこうなることくらいは分かっていただろう。
きっとまだ奴には絶花の作戦を上回るなにかがある。
「お前……その妖怪……本当に『鎌鼬』か?」
絶花が奇妙な言葉を発した。私には理解不能だった、本当もなにもあの妖怪は鎌鼬だろう。小動物での姿も目撃しているはずだ。
「そうだよ、俺の式神は『鎌鼬』だ」
「なんでだろう。お前に能力が付与できない。俺の化け鯨の災禍がそろそろ降りかかってもおかしくないはずなのに」
「それは君が疲れているからだよ。私の仲間の功績のおかげだ」
まるで心にも思っていないかのように、淡々と抑揚なくあっさりとした口調だった。
「お前、嘘つくの下手だろ。気持ちが伝わらないぜ」
絶花が足を踏み込んで重心を傾ける。能力が効かないと見ると、すぐに物理的に引き剥がしにかかった。
「俺は嘘なんかついていないよ。俺は全て本心さ。仲間は大事に思っているよ。新陰陽師がこれからの正義だよ。俺は正義のために腕を振るっているよ。俺は……」
ワザとらしい。まるで包み隠す気のないような口ぶりだ。まるで思っていることと反対のことを喋っているような。嘘をつくことを、酸素を吸う感覚で、二酸化炭素を吐く感覚で、吐き出しているような。
「なんか口調がおかしくない? さっきから。こいつまるで機械人形みたい」
「違うよ、私は心のこもった人間だよ」
「だからそういうのが怪しいんだって」
誰かに操られていると考えるべき。では、いったい誰が? 先駆舞踊の式神である鎌鼬が主を裏切って反逆しているのだろうか。いや、そんなことは信憑性がない。絶花のような旧世代の陰陽師と違い、今世代の陰陽師は妖怪と仲良くしているはず。恨みを買っている気がしない。
では……誰が……。
「おい、本当にそいつは鎌鼬なのか? 鎌鼬がここまで禍々しい妖気を発するとは思えない。だが、他の式神の波長を感知できない以上は、こいつが犯人と見るべきだ。これは……本当にどうしたんだ……」
大鎌が徐々に大きさを増していく。まるで先駆舞踊の邪気を吸い込むかのように。
「ひっひっひ」
「おい、どうした? 気が狂うのにはまだ早いだろ」
「絶花。これって別にあなたの化け鯨の災禍ではないよね?」
「あの術なら弾かれた。圧倒的な妖力の壁に阻まれた。接触口があの鎌だったのが頂けない。あの鎌が先駆舞踊をおかしくした原因だから……」
蒲牢の言葉を思い出した。俺よりも強い奴がいると……。私は最初は信じなかった。だが……こうなってくると…………。
「いるのかも。蒲牢よりも、化け鯨よりも、強い妖怪」
★
「うっ、しゃアアぁぁぁぁ」
遂に絶花の方が鍔迫り合いを拒んだ。いなすように攻撃されるベクトルをずらす。その衝撃余って大鎌の刃先は地面にくい込んだ。そして……大きな穴がポックリと空いた。




