円盤
妖怪が武器そのものになる。私はまたそんな現象を目の当たりにした。今度は大鎌だった、真っ黒な色付きに、つむじかぜのような造形をしている。刀身が円盤状になっており、刃先から刃先までの距離が少ししかない。遠くから見ればドーナツのように見える。とても美味しそうじゃないが。ギリギリ鎌と呼べるだけの形状ではあるのだが、どうも発想に遊び心が入りすぎている気がする。
「それって意味あるの? 鎌鼬のまま戦ったほうが効率がよくない?」
「鬼神装甲の恩恵を受けたことがないお前には分からないだろう。この力を存分に味わうがいい」
「なんかそれっぽい台詞は無視するとして…‥やっぱり非効率だよね。小動物がチョロチョロ動き回るから価値があったのに」
私はそうは思わない。元の鼬の大きさしかない状態で、仮に攻撃が当たったとしてもそれは刃先が小さいのと、鼬本来の馬力の小ささでたいしたダメージを与えられない。それよりも巨大な鎌になって、物体を振り下ろす動力を外部にお願いすることは、充分に弱点克服に繋がっていると思う。
それに絶花の能力である相手の運気を根こそぎ奪う能力だが、あれは少なくとも化け鯨に触れさせなければならない。つまりは近距離戦闘が求められる。小太刀や拳のように、お互いが接触する機会が生まれて初めて効力を発揮する。だが、鎌や槍のように中距離戦闘をする武器では、上手く間合いがはかれない。こちらが技を決めてしまう前に切られてしまう。そして、鍔迫り合いになりにくい。
「絶花。油断しないで。あの大鎌は私たちにとって不利になると思う」
「お姉ちゃん。好機だと思ったら、あの防犯ブザーを投げていいからね。今は蒲牢も目を覚ましたからコントロールが効くはずだ。鎌じゃ音波も衝撃波も防げないでしょう」
と、悠長に会話をしていると、無作法にも先駆舞踊が斬りかかってきた。今回はシンプルに頭上から振り下ろすようにスイングした。重力がのった最も簡単な攻撃。鎌の恐ろしいところは、見た目の扱いにくさと裏腹に連続に技が出しやすいところである。あの三日月型の造形もポイントだ。遠心力という物理的な力がある。回転運動している物体におこる見かけの力である。
鎌鼬が小動物だった場合は、そもそも風に紛れて見えなかった。だが今回は大鎌ははっきりと見えるが、その力の源は見えていないというわけだ。
「作戦会議は私のいないところですべきでは?」
「そうですねぇ、えぇ、はい」
絶花は曖昧な返事をしつつも、どうにか折りたたみ傘を両手で握って鎌を止めた。だが、鎌の鋭さによっては傘ごと真っ二つになっていたかもしれない。からかさお化けもそれなりの強度ということだろうか。
「その鎌、本当に切れ味が悪いな。やっぱり真夏に鎌鼬を動かすのは無理なんじゃない?」
「いえいえ、こっからですよ」




