鋭利
そもそもここまでの大事になった時点で話し合いなど無意味なのである。もう後は殺し合うしかない。きっと私と言葉を相手は聞き入れてくれないだろうし、あいつらの意見を採用するならば、私と絶花はここで二人で心中だ。
「夜回、下がっていろ。お前じゃ奴らと相性が悪い」
「ごめんね。五人でチームを組むって、1人が戦えなくなるってことだもんね~。じゃあリーダーが二人を殺せたら、すぐに病院まで運ぶよ。気絶するくらいまで頑張って」
あの駅員コスプレの女はあっさりともう一つの後ろの車両に下がってしまった。どうやらこのリーダーとやらが負けるとは思っていないらしい。自分を守るために必死に戦って欲しいという懇願はしなかった。
「ここまでお前の仲間が三人も倒されているっていうのに、どこからその自信が生まれてくるんだ」
「君たちの手の内は先ほどの三回の戦いで把握している。私の仲間がかき集めてくれた大切な情報だ。そしてここまで戦ったことでかなり疲労しているだろう。連戦の疲れが顔から伺えるんだ」
最後の美味しいところだけリーダーが持っていく。そんな醜い感情が垣間見えた。こいつは本当に仲間のことなど大切には思っていない。完全なる偽善者だ。『仲間は大事』て言って外面をよくしておくことで、自分の評価を高くしようとしている。でなければ、あんな感情の篭っていない口調で、あんな臭い台詞が言えるものか。
「男で私ってなんか変じゃね?」
「絶花。別にそれはどうでもいいでしょ。世の中の男性には『私』が一人称の人もいるよ、あんまり見たことないけど」
こいつの場合は、『私』という大人ぶった口調のほうがウケがいいからって、ただそれだけだろう。王子様にでもなったつもりだろうか。
「そろそろ茶番は終わりでいいかな。じゃあ君たちを排除させて貰うよ。来い!!! 鎌鼬!!!」
御札から飛び出してきたのは、爆風をまとった小動物。前脚と後脚が鎌のような鋭利な刃物。尻尾が波風に大きく揺れる。大きさは小型犬程度で、今まで見てきた妖怪の中では『さがり』を除けば一番小さい。顔は獲物を狩る狩猟者そのもので、世の一般のイタチのイメージとは食い違い、極めて可愛くない。
「金属性の『鎌鼬』。本来は冬の妖怪なのに、こんな真夏にご苦労様だな」
「鎌鼬って言ったら結構有名だね。妖怪に詳しくない私でも知っているよ」
「う~ん。陰陽師の間では、そんなに出回っていない妖怪かな。寒い地方だけの妖怪だから。世の一般的な知識では、刃物に触れられても怪我をする。切られたことにすら気がつかないっていう能力だけど……」
この妖怪が蒲牢の言っていた『自分よりも強い式神』なのだろうか。確かに見た目はデンジャラスだが、どうも化け鯨や蒲牢のスペックから比べると見劣りする。
「さぁ、皆の敵をとらせて貰うよ」
前のシリーズから出したかった妖怪です




