流行病
禁術を平気で使った、容赦なく。その技を使った理由は、ただただ仲間同士の相打ちを演出したかったってそれだけ。それだけで……。
「習字……」
黒鬼が折角に見栄え初めていた自尊心を粉々に打ち砕いた。
「貴様……本当の外道だったのか?」
「大正解って言ってあげたらどうする?」
「よくも……よくも……私の主を!」
仲間を、親友を、パートナーを、傷つけられたその苦しみを吐き出すように、今度もまた絶花に挑みかかっていく。しかし……。
「いいのか? また鐚塗で虎坂習字と居場所を交代するかもしれないぞ」
その悪魔の一言により黒鬼の行動が完全に止まる。冷や汗がたれて、目は大きく見開いた。まさに相手の深層心理を利用した下衆ならではの作戦。
「どこまで外道なのだ、貴様……」
「この外道が日本中の悪霊を倒して日本人の平凡な皆様を救ってきたんだぜ。お前みたいな鬼はどうだ? 外道、外道という割にはお前こそ人殺しの代表格じゃないか。これが現実だ、馬鹿野郎」
「私はもうそんなことはしない……。一般人と仲良くとまではいかないが、それなりに今の陰陽師と強調し合って戦う所存だ。それでは駄目なのか」
「身の程を弁えろ」
「そうか。お前に訴えても無駄だったか。では、お前を倒してせめて緑画高校への戦績にしよう。それが今の私にできることだ」
「残念。それも叶わない。チェックメイトだ」
確かに黒鬼のほうが不利だと思う。本来的に陰陽師と式神はセットでその真価を発揮する。片方がいない状態ではまともな戦闘はできない。いくら弱点の属性だと言っても、陰陽師と妖力を練り合わせて初めて成立する五行の相性だ。
「この勝負はもう見えているよ。お前の負けだ」
「なにを根拠に。鬼の底力を舐めるなよ。貴様がいかに卑怯卑劣な技を使おうと、この強靭な肉体と体力があれば関係ないこと。だから……」
「いや、だからどうしてそういうふうにバトル漫画みたいな事を言うの? 防御力とか攻撃力とかさぁ。そんなの突きつけられても、今時の中学生は喜ばないよ。ただでさえ性格が屈折しているから。まぁ、いいや」
絶花が声のトーンをまた下げた。残酷に、冷徹に、明瞭に、短調に。言い放った。
「自害しろ。そうすればお前の主とやらの命は助けてやる」
「どうして私が貴様の言うことなど……ぐっ、まさかお前……」
「お前の主の運気をすべて根こそぎ取り上げた。このまま俺の能力が続行し続けたら、あの虎坂とかいう陰陽師はインフルエンザみたいな流行病で死んじゃうぞ。それか……不慮の事故とかでさぁ。今は本人が気絶しているからわかりにくいけど……起き上がったら凄いことになるよ」
絶花の言葉はおそらくハッタリではない。あの添木生花にも同じことを施していた。今回だって可能なはずだ。それは鬼も知っているはず。そして、自分が死んでも何年後かに復活すればいいが、虎坂の命はそうはいかないことも。
「命令に従っても、我が主が助かるという保証はないだろう」
「ところがどっこい、あるんですよ。ねぇ、お姉ちゃん。俺のお姉ちゃんにお願いしておくのさ。俺がもしも虎坂にトドメを刺そうとしたら、俺を叱りつけるように」




