弱者
絶花の声がだんだん怖くなってきた。まるで憎悪を撒き散らすかのように、言葉を発していく。
「そもそも妖怪を式神とした経緯は、およそ平安時代に遡る。あの頃は妖怪も悪霊も変わらないくらいに人を殺める存在だった。当時は医療技術や工業技術が発達していなかった人々は、天災をなによりも恐れた。それを防いだのが陰陽師の始まり」
その天災を呼ぶものが妖怪であり、悪霊である。
「妖怪の中には今この頃とは比べ物にならないくらい人を殺す奴等だった。だから陰陽師は悪霊と変わらないものとして、妖怪も全力で封印していった。しかし、阿部清明は新たな技術を開発した。妖怪の妖力と陰陽師の妖力を噛み合わせる技術。お互いの交わることのない波長を噛み合わないまま、互いを伝達し合う技術を革新した」
そして、妖怪の名前を『式神』と名づけた。その力が全国へと浸透していった。
「式神となった妖怪は姿を変えた。鎖に繋がれた飼い狼は退化し愛玩動物のような『犬』となる。その構図と同じだ。陰陽師の統制に反発する動きをすれば、意識を消して操った。式神契約をしていない妖怪は……霊界に逃げ込むしかなかった。それでも妖怪は死なない。その特性は受け継いだまま。だから……捨て駒作戦がここに完成した」
「妖怪の時に比べて、式神になった時の能力が落ちるのは、無理矢理に働かせているからだろ!! そうしない俺たちは、『鬼神装甲』という新しい技術を編み出した。だから……」
「だから駄目なんだ。どうして引っこ抜いた牙を返してやるんだ。ここで重要なのは、妖怪が本来的に『人間に害を為す存在』だからだ。陰陽師が跋扈した時代にも、強力な妖怪は人殺しを続けている。それが今の捕獲不能な妖怪だ。全国に被害案件がどれほど散らばっていると思っている。妖怪が人を驚かせる存在なんて肩書きがついたのは、陰陽師と妖怪の妥協点がその辺だったからだろう」
このまま妖怪と仲良くすれば……霊界から妖怪を解き放つことになる。そうなれば、悪霊に継いで妖怪も人を殺す行動を取るかもしれない。いや、もっと酷い結果にも……日本の人口が戦国時代と同じ人数になったり。
「お前たちがしていることは、自分たちの力を過信しているからこその考えかただ。妖怪を操れるという保証はどこにある。人間は弱い生物だ、一般人では決して妖怪には太刀打ちできない。だからこそ……」
★
「やめい」
この台詞を言ったのは黒鬼だった。見かねたという顔、呆れたという声、疲れた態度である。肩を落とし、なにかモドカシイような苦しみが伺える。
「我々はお前たち人間を恨んでいるが、それ以前に我々が手を出したから悪い。お前たちは弱者なりの生き方を選んだというわけか」
「弱者って言い方は気に入らないが、そういうことだ。人殺しの代表格、『鬼』さん」
「ふぅ。憎しみをぶつけ合うというのはこういうことだろうな」




