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競争

 「なんなんだ、てめぇ」


 「俺は苫鞠陰陽師機関の陰陽師。倉掛絶花。根暗でボッチで卑怯者で甲斐性なしで……下衆野郎だよ。でも……俺は陰陽師だ。その魂を失う真似はしない。お前たちのことも認めないし、許容しない。文句があるならかかってこいよ、全員まとめて返り討ちにしてやるぜ」


 黒鬼がさすがに無視できないと、顔をあげて絶花を睨んだ。あの鬼はなにを考えているのだろうか。従来の陰陽師としてのスタンスを持ち続ける絶花に対する憎悪だろうか。それとも……。


 「お前、狂っているよ。この世界平和の時代に奴隷制度とか身分差別とか階級社会とか、そういうのは間違っているって学校の授業で習わなかったのか? 社会の授業とか、特別活動とか、総合的な学習の時間とか!! お前は今までなにを学んできた!!」


 足蹴にされている虎坂の決死な叫び声が絶花をイラつかせた。確かに奴らの方が正しいのかもしれない。一般常識的に言うならば。


 「お前だって中学生ならそれなりの人生経験を積んできただろう。お前のことを見下す人間だっていただろう。それで、お前は嫌な気持ちにならなかったのか? 悔しい気持ちにならなかったのか?」


 「お前、ちょっと五月蝿いよ。あのなぁ、陰陽師は一般人とそんなに関わり合いを持ってはいけないのが大原則。奴隷制度が正しくないことは俺だって理解している。だが、それは『人』の話だろう」


 冷たい声だった。絶花の目は霞んでいた。


 「世界は残酷だ。社会的立場、経済的な余裕、最終学歴、ルックス、容姿、顔。どうしても人間には能力というパロメーターに分けられる。上下関係が無い社会? 神の前にみんな平等ってか。笑わせるな。会社に上下関係があるのは当たり前。子供が大人に口答えが許されないのは当たり前。テストを受ければ順位が出るのも当たり前。指揮者がいなけりゃ演奏はできない、政治家がいなきゃ経済は回らない。お前は俺より年上かもだけど……社会を見えていないのはお前だよ」


 誰だって自分より下の人間がいるのは気持ちいい。小学生が人をあだ名をつけたり罵倒をするのは、自分を環境的に優位にするため。中学生が『ブサイク』だのという言葉を使うのは、自分へのコンプレックスの裏返し。誰にだってプライドはある。自分を幸せにしようと奮闘する。


 「日本は資本主義国で競争社会だ。競争とは他人を蹴落とし、自分がのし上がること。敗者が理不尽な目にあうのは当たり前。平等なんてものを語る人間は大抵がクズだ。自分が幸せになりたいがために、詭弁をばらまいているだけだ」

作者はこんなこと思っていません

むしろ、この話の中でも否定していくつもりなので

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