安直
絶花の睨みつける視線を黒鬼は顔を傾けてかわす。鬼がなんなのかくらいは知っているが、酒呑童子なんてそんな妖怪は知らない。その……日本の中で最強の三体に入る妖怪なのだろうが、特性などあるのだろうか。それが分かっている絶花には、対抗手段があるかもしれない。
「ち、ちくしょう!! こうなったら……鬼神スキル『宵氷』!!」
結婚式で絶花が使った術と同じ名称だ。効果は前方にいる生き物の全ての行動を停止させる能力。これで距離を詰めて接近戦を仕掛けるつもりだ。遂に虎坂習字が自分ひとりで動き始めた。これにより絶花は全く動けない。
「よっしゃ!! 鬼神スキル『蓮柱』!! このまま一気に切り刻んでやるぜ」
奴の懐からくしゃくしゃに丸めてある紙の束が現れた。それが一枚一枚開封されていく。どうやら御札のようだ。その球体が今度は棒のように一直線に並び、刀剣のような姿へとなった。
「完全に油断してやがったなぁ、倉掛絶花ぁ!! 終わりだ、馬鹿野郎!!」
いかにも二枚目のような台詞を吐き捨てながら、無鉄砲に突進してくる。虎坂習字の戦術は確かに完璧である。このまま動けない相手を切り刻めば、それだけで絶花を殺せるだろう。しかし……そんな安直な作戦が通用するならば、前の二人が私たちを倒してたと思わないだろうか。
奴が刀を振り切る瞬間に絶花が嘘のように動いた。大きく振りかぶって上から切りつける虎坂を、右に状態を動かすことによって華麗に躱し、そのまま折りたたみ傘で腹部を殴打。
「おうぅ……」
技が決まっていない驚愕と、腹部の激痛で虎坂の顔が引きつる。両手から離れた蓮柱なる棒きれは、空を舞い黒鬼の傍へと落ちた。
「お前……他の二人と比べて全然弱いよ」
そう絶花に吐き捨てられると、もう一回顔面に折りたたみ傘を強打させる。頬に命中し赤く腫れ上がった。体制を崩し地面に突っ伏す虎坂の背骨を、絶花が容赦なく踏みつけた。
「お前の技は式神から妖力を供給していない。だからお前の技は『効きが甘い』。動きも止められないし、武器も弱い。蓮柱なんて初歩の初歩、陰陽師になりたての小学生は使う技じゃん。攻撃力にも防御力にも秀でていないただの棒で、この俺が倒せるわけがないだろう」
「うぐっ……」
「これはラッキーだった。俺の苦手な属性の野郎が、馬鹿で、役立たずな、小隊のお荷物の、三下野郎だったなんて。そりゃ式神にも愛想をつかされるよ。まあ、そこで不貞腐れてふんぞり返っているデブもアレだけど。これが最新の陰陽師の姿だというならば……本当に滑稽だね」
凄い暴言。畳み掛けるように虎坂を貶していく。ついでに黒鬼まで挑発しちゃったよ。これだから陰湿だと言われるのだ。実力差があって簡単に勝てるなら、さっさと気絶させればいいのだ。それをわざわざ……。
「このやろう、人を踏みつけやがって……」
「さぁ、式神。ご主人様のピンチだ。このまま見殺しにするか?」
虎坂の訴えを完全に無視して黒鬼にコンタクトを促す。まさか……添木と戦った時のように、陰陽師と式神の相打ちをねらって、わざわざこんな真似をしているのか。演出を悲劇にするために……。
「絶花っ!!」
「お姉ちゃん。そんな顔をしないでよ。陰陽師の世界では無能なことは罪なんだ。また従来型って言われるかもだけど、基本的に自分の仕事だけを遂行し、自分の持ち場だけを守る。そういう戦い方をする陰陽師には助け合い精神なんてない。『弱さ』をカバーするなんて発想は駄目なんだ。これは学園ドラマじゃないんだから。だから……無能は陰陽師を語ってはいけない。そうだろ? 虎坂習字」
絶花の顔は笑ってはいない。むしろ……憤怒のような顔だ。
この性格悪い、相手を挑発している側の人間が主人公です
お間違えなく




