怨敵
どこまでもやる気を感じないこの二人。妖怪を奴隷として戦わなくなった陰陽師の弊害がここにあった。式神側の仕事放棄。信頼関係が築けていない限り、その共同戦線は成立しない。
「こんなことが……」
「これは笑われても文句言えないですね」
「う、うるさい!! 俺が本気を出したらお前らごとき……。おい、黒鬼!! どうして攻撃しないんだ。なにか理由があるのか?」
「戦う理由がない。貴様の命令に従うことだけになる。そんな信念なき戦いに私を呼び込むな」
「あいつが従来のお前たちを馬鹿にして奴隷にしてきた奴等なんだぞ。一死報いたいと思わないのか?」
なんか小学生の頃に『先生に言いつけてやる!!』って、口癖のように言っていた奴らを思い出した。
「わしは陰陽師が嫌いだ。だから奴らはわしの宿敵であるが、それはお前も同じこと。頭が悪いから、旧式など最新だの言われても分からない。貴様と仲良くなど……今更そんなことが出来るはずがないだろう。党首様のご命令だから仕方がなく緑画なる集団に加入しているが、正直気乗りはしていない」
「はぁ? 俺はお前の味方だよ。力を合わせて旧式のお前たちを奴隷にしてきた奴らを見返してやろうって話したじゃないか」
「ならばお前の誠意を見せてみろ。わしの友人を語るならば、貴様があの私の怨敵を倒してみせろ」
「ふぇっ、だから……その……、さすがに絵之木と添木が倒せない奴を俺が一人で倒せるわけないっていうか……」
この茶番劇をいつまで鑑賞しなくてはいけないのだろうか。私たちも京都へ行くという目的があり、そんなに暇ではない。戦う気がないなら道を開けて欲しいのだが。だが、こっちから打って出れない理由もある。あの黒鬼という妖怪、どうやら絶花のことは敵だとは思っているらしい。だから傍を通りかかれば攻撃してくれるかもしれない。まだ、全然油断はできない。
「ねぇ、党首様ってもしかして閻魔大王様?」
「違う」
「だよねぇ。閻魔大王の側近ならば霊界から出てこない。例え陰陽師から引っ張られても、閻魔の下で働く鬼が地獄から出てくるはずがない。捕獲不能とはまた違った意味で不可侵領域だからな」
……閻魔大王じゃないとすると……鬼を束ねる存在なんてめぼしいものが思いつかないのだが。私には知識が薄いからなのだろうけど、絶花は思いついているのだろうか。
「鬼なんて全国に散らばっている妖怪としてなら、まさに代表格だ。秋田のなまはげ、江戸の手洗い鬼、京都の福鬼。でも……やっぱり一番にその名前がデカイのは……『酒呑童子』かな」
黒鬼の眉毛が動いた。少し苦い顔をする。これが党首様の当たりだろう。
「酒呑童子。安倍晴明の生きていた平安時代の頃に京都を暴れまわった、源頼朝とその四天王に倒された妖怪。日本三大悪妖怪の一体だな」
「また知らない単語を……なによ、それ」
「酒呑童子。白面金毛九尾の狐、玉藻前。そして、大天狗。つまるところ日本で三本指に入るくらい強い妖怪ってこと……。で、その部下ねぇ」
『特になにもしない陰陽師』
遂に日本三大悪妖怪に首を突っ込みます
まぁ、出てきませんけど……たぶん。
前作でも出てきていないんですよね~。
烏天狗と、化け狐は出てきましたけど。




