黒鬼
黒鬼、その姿は筋骨隆々としか言いようがない。全身が黒一色に染まり、光に反射して煌めいている。歯には牙があり、爪は長く、角が二本。少しポッチャリとした体系で、下半身にはトラ柄のパンツを履いている。そして……まさかの……。
「鬼って金棒を持っているものなんだ」
真っ黒の太くて刺のついている金棒が腕に握られてある。これはびっくりだ。
「地獄にとって閻魔大王の配下の獄卒。全国各地に伝わるその偉業。神であり、災害を産む害悪。人を喰う凶暴さ。人知を超えた脅威、それが『鬼』だ!!」
今までの妖怪は知らない種類が多かったが、この私でも『鬼』の存在は知っている。日本国民ならば節分を体験することで自然と認知するだろう。人間に揶揄される場合は、あまりにその者の功績や能力が高く、感心を通り越して気持ち悪さを感じる現象。
「恐ろしさと凶暴さの象徴……陰陽師じゃなくても、極めてメジャーな妖怪だね。俺たち陰陽師が技術として使っている『鬼神スキル』も、実はこの鬼の一族から没収したものなんだ」
虎坂は照れくさそうな顔になる。別にお前を褒めているわけでないと思うのだが。さぞ嬉しそうに鼻の下を長くしている。
「俺は前の二人と違って油断したりしねぇ。さっさとケリをつけさせて貰うぜ。こいつの属性は『土』だ。お前の化け鯨の呪いとやらが成功するか、得と御覧じろ!! 行け、黒鬼!!」
人差し指でまっすぐに絶花の方を指差し、突撃命令を出した。これに驚いて絶花はすぐに警戒体制に入る。御札を構えて、腰の折りたたみ傘をいつでも居合抜きできるモーションだ。細腕の絶花があの筋肉の塊のような生物に物理で勝利できるとは思わないが、あいつのことだ。なにか策があるはずだ。
で…………。
突進してこない。
「あれ?」
「殴ってこない……」
黒鬼さんといえば、凄く嫌そうな顔を浮かべて、さぞなんの興味もないと訴えるかのように明後日の方向を眺めている。金棒を地面に投げ捨て、角の後ろあたりを右腕でポリポリと掻き、眠そうにあくびをした。
「命令に従わない…………」
「これは滑稽ですねぇ。面白い、面白い」
虎坂習字はだんだん顔が赤くなっていく。冷や汗を流し、顔の角度が下へ下へと下がっていく。極めつけに唇を噛みはじめた。
「おい!! いつになったら攻撃するんだ!!」
「“あぁ”」
しびれを切らした虎坂の急かしに対して、黒鬼はドスのきいた返事をした。まるで調子に乗って喧嘩を売っている凡々に睨み返す番長のような構図。虎の威を狩る狐。そんな言葉が似つかわしい。当然、虎坂は体を震え上がらせてビビっている。だが、震える声でこう続けた。
「おい、お前が戦わなきゃ鬼神装甲に覚醒していない俺がどうやって戦うんだよ」
「走って、拳を突き上げて、殴る。やってこい」
「できるか!! 殺されるわ!!」
まるで漫才のコントを見ている気分だ。あの黒鬼とかいう妖怪は、本当に全く戦いに参加する気持ちはないらしい。
「なんなの、こいつら」




