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冥婚

 私が去年、中学校の購買で買った桃色の折り畳み傘に目玉などついていなかった。それから一年近く、雨の降る日には行動を共にしたが、喋りかけたことなど一度もない。


 私は小さい悲鳴をあげて、地面に傘を放り投げる。侵入者を撃退する為に掴んだ凶器が、本当の侵入者になっていたとは。目を凝らして何回も見直すが、やっぱり目玉がある。


 「あのう、あのう。私の名前は『唐傘からかさ』。あなたを守護するようにご主人様からご銘を受けました」


 「あの馬鹿弟……私に関わるなって言ったのに」


 護衛だと、私に危害が加わる可能性でもあるのだろうか。確かに私がその死んだ人の結婚式とやらに言ったら、危険が生まれるかもしれない。だが、まだ私は行くことすら了承してはいないのだ。


 「姉君あねぎみ。式神契約とは妖怪一体ずつとの契約ではなく、その種族全てとの契約なのです。ですから私は……その中の一体で……」


 それで余っている野郎を取り敢えず一匹は私のボディーガードに付けていようという腹か。なんというありがた迷惑。私の日常は今まで平和だった、その平和が弟と母の帰還くらいで叩き壊されてたまるか。


 少しずつ傘の形状が変わってきた。足が一本生えて、長くて真っ赤な舌がニョッキっと飛び出している。最後に傘から2本の腕が伸びて、変形完了と言わんばかりに私の方を見つめた。


 「怖かったぞ。この野郎」


 「死後婚の件なのですが、実はわたくしの方から少し申し出がございまして」


 ……こいつ、私の弟と違って態度が小さい。妖怪であるからどれほどの狂気を漂わせているのかと思いきや、随分と弱々しいというか、破棄がないというか。


 「あの任務は極めて危険であります。絶花様が何を考えているかは存じませんが、興味本意で向かわないで下さい。あなたが思っているよりも、死後婚は極めて危険な儀式なのです」


 危険? 呪いの儀式という話か。確かに私もこの話を聞いて良い気分にはならなかった。あいつも、『お互いの親族の為にある』とか言っていたし。確かに幽霊関連の話なら危険性もあるだろう。


 「私が危険な目に合う可能性もあると?」


 「……はい」


 まあ、目玉の付いている傘と平気で話している私も、かなり危険な人間だと思うのだ。だが、妖怪と言ってもそんなに恐怖感を感じる仕様ではない。愛らしいとは思わないが、そんなに怖いとは感じない。


 「それで、危険性ってなによ。どうして私が危険な目に合うの?」


 「死後婚とは結婚式というよりは、『お見合い』という表現が正しいのです。もし現れた二人の霊の恋が実らなかったら。それで二人が別れればそれでいいのだけど、もし別の人間を好きになったら」


 恋愛対象の変更か、それは怖いな。つまり霊の男の方が私に憑いて、呪い殺そうとしたら危険だと言いたのか。


 「でも、結婚式もお見合いも、全て幽霊を誘き寄せる為の茶番なんでしょ?」


 「そう簡単な話ではないのです。悪霊を二体以上戦闘することは極めて困難です。いくらベテランが揃っても、両方を仕留める成功確率は極めて低い。それに死後婚とは……本来の陰陽師の規定では禁則事項なのです」


 母親は陰陽師機関が崩壊したと言っていた。つまり今までのセオリーは無視してもいいという話である。


 「陰陽師に限らず死後婚……いわば『冥婚』の儀式は世界中にあります。今でも法律で認可されている国家があるほどです。神話や伝説にも存在しますから。でも……陰陽師はそれを儀式として取り入れませんでした。危険性が多くともない、一般人に迷惑をかける可能性が高いからです」


 一般人に迷惑がかかる事を厭わない。陰陽師の悪霊退治のルールが変わった。今までの規定を無視して、悪霊を仕留めて国家から資金を貰う事しか考えない。


 「弟は私をどうする気だよ」


 「…………分かりません。私には」


 「まさか、その悪霊の餌にするつもりかよ」


 二体以上を相手取るのは極めて危険だ、つまり一体は引き剥がしておく必要がある。つまり男の方の悪霊を私に掴ませておいて、まずは女性の悪霊を始末する。その後にゆっくり私のとり憑いた悪霊を倒す。頭の中で辻褄つじつまが合った。


 「冗談じゃない。私は悪霊を捉えておく網の役割かよ」


 弟は血が繋がっているとはいえ、両親が同じな訳ではない。……まさか、疎ましい私を殺す為に、都合よく事件に巻き込もうとしているのか。


 「ふざけるな!! 私は陰陽師じゃないんだ。悪霊の知識なんかない、防御方法なんか知らないよ。このままじゃ私は殺されるじゃないか。それに……死んだ人間と結婚してたまるか」


 もし本当に悪霊が私の事を好きになったら、私は冥界にでも連れて行かれるのだろうか。悪霊と同じ立場になる為に。


 「殺される……。弟に殺される……」


 いや、もし私を殺すつもりなら、こんな下僕しもべの一匹を私に預けたりしないだろう。直接的な殺意がある訳ではない。ただ身内だから利用しようという考えだろう。もし、危険になったらこいつで撃退しろって話か。


 「断る。私はそんな作戦には協力しない」

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