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泥臭

 奴は語らなかったが、どうして素直に絶花に一番有効な土属性の陰陽師を仕向けなかったのか、なんとなく分かった。絶花の使う式神の能力の機動が触れた瞬間だという条件が分かったからだろう。だから奴なのだ、遠距離攻撃を主軸とする接近戦をしないであろう人物。そう考えるならば、あの絵之木ピアノという女を仕向けた理由付けとなれる。

 

 「さて、じゃあ戦おうか。……いつまで持つか分からないけど」


 「お姉ちゃん。やっぱりこの女は逃げた方がいいと思う。このまま五人全員と戦う気持ちだったけど、こいつはなんというか……性格的に相性が悪いよ。もうあいつの顔みたくない」


 何回か言い負かされたくらいで弱気になる豆腐メンタルの弟には呆れるのだが、戦わないという判断には概ね合意だ。こいつは何か得体が知れない。


 だが、逃がしてくれるはずもなく。


 妖力の塊のような弾丸が絶花の顔のすぐ横を横切った。また絶花が目を丸くする。人間が本当に恐怖を感じた時にする、怯えではない無心の顔だ。


 「せっかくだから逃げるなよ。私とも戦ってくれるよな、そこのお兄ちゃん」


 「俺、マトモな人間を狂わせるのは得意だけど、最初から頭がバグっている人間を正気に戻すのは凄く苦手なんだよね」


 「絶花……あんた、本気で陰湿野郎だったのね」


 「この際に認めるよ。俺は確かに陰湿です。それでも嫌いにならないでね」


 お前の陰湿さなど百も承知だから今更なんだよって気分なのだが。確かにあの女は狂っているかもしれない。絶花の挑発にも応じず、それどころか覆い被さるように乗っかってくる。


 左手で拳銃を握り締めて、右手で添木生花の傷を癒す。仲間を見捨てず、敵を逃さず、不利に怯えず、言い負けせず、信念を持っている。まさに主人公の素質がある人間だ。だからこそ、主人公特有の泥臭さというか、気持ち悪さを感じる。どのバトル漫画でも主人公の健気な姿を疎ましく思うキャラクターがいるだろう。そんな気分だ。


 「五人も相手にすれば妖力がさすがに枯渇する。そうなると後が大変になる。なるべく苦なく乗り切りたい。見送れるならば、見送りたい。気持ちは分かるけどね」


 「ちげーよ。心の底からお前と戦いたくないだけだ。気持ち悪いから」


 多面的な見方をしないならば、確かに絶花は悪役のような男だ。性格は我が儘、温々と甘やかされて育ち、冷徹で手段を選ばず、仲間に囲われず、優しい性格でもなく、隙も多い。ここにバトル漫画の勧善懲悪が完成してしまっているのである。


 だから……。


 「絶花、教えて。あの『さがり』っていう妖怪の特徴を」


 「…………は?」


 この場を絶花に任せるのは駄目なのかもしれない。だから……。私は駆け出していた。隠れていた、椅子と椅子の間を抜けて通り道へと踊りでる。


 「あれ? そっちのお姉ちゃんは見学志望じゃなかったの?」


 そう言いつつも二弾目が発砲された。それを私は『からかさ』を広げて上手く防御する。そのまま絶花のいる居場所まで駆け寄った。


「お姉ちゃん、なにを考えているの?」


 「なにも考えていない。動き出してから考えるよ」


 あいつは遠距離攻撃しかしてこない。こちらが前に出ない限り。


 「あれ……どういうこと? そこのお姉さんが戦うの? どうして? 私はさっきの添木との戦いでは完全に隠れていたのに。どうして私とは戦うの? 初心者があんまり出しゃばらない方がいいと思うけど」


 「……お前たちは全員が勘違いしていると思うけど、私は陰陽師じゃないよ。だから旧陰陽師だから襲うとか、本部に逆らうとか、そういう理屈は私には通じない」


 「はぁ? 式神を持っている時点で陰陽師でしょ。この混乱しているご時世に本部登録とかないだろうし。………………いや、待て。あんた……体の中に妖力がない…………。どうして…………適性がないなら陰陽師になんかなれるはずがない。そもそも妖怪を操れないはず。お前は……何者だ」


 「お姉ちゃんだよ、この馬鹿弟の」


 勝てるという確信など、どこにもない。でも、心の中に絶望が別の意味で発動していた。先ほどの添木生花が死する瞬間。私の中の一般的な『ありえない』という感情。戦場へと引きずり込まれた鈍い感覚。


 もし、こいつが主人公みたいな性格だというならば、絶花は相性が悪い。主人公に勝てる人間は『敵』であってはならない。つまりは奴の正義を、正しさを、正当性を否定出来る人間。


 「絶花が本気を出したら、たぶんあなたは死ぬ。私はもうそんな姿を見たくないの。だから平和的に私はあなたを倒す」


 「言っている意味が分からない!!」


 弾丸の雨あられが私を襲った。私の携帯していた折りたたみ傘を広げて、体を屈めて防護壁のようにして、どうにか被弾を免れる。一発、一発の弾丸の衝撃が右手にかかる。そのたびに片目を瞑って耐え凌いだ。


 「何者だ、お前は……。そこの化け鯨使いよりもイレギュラーだ」


 「知らない、私が何者かなんて。でも……そんなものは今から私が決めていく。お前に名乗る肩書きなんかないけど、それでも私は私の理由だけで戦うの」


 絶花が目を丸くしている。私が戦う算段など全くなかったのだろう。理解不能は絶花も同じだから。


 「さがり!! あの傘を叩き潰せ!!!」

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