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拳銃

 「やかましい」


 答えない、完全に無視した。奴はゆっくりとこちらへ向かって歩き始める。


 「ちょっと近づいてくるんだけど…………これってどうすればいいの?」


 「お姉ちゃん、取り敢えず俺の傍を離れないで。おい、そこの女。これ以上近づいたらお前も化け鯨の呪いに……」


 ……いない。視界にいない。残されているのは首切り馬だけだ。あの女と『さがり』という馬の頭だけが、忽然と姿を消したのだ。瞬きしているかの間に。


 「まさか……」


 私と絶花は恐る恐る振り返ってみると、そこには添木生花の死体に近づいて、瞳孔や呼吸器を確認するバンダナ女の姿がいた。私が奴に出し抜かれるのは至極当然だとしても、完全に絶花をも抜き去っていた。驚愕の顔を浮かべて理解不能を噛み締める絶花。


 高速移動か、瞬間移動か。それでもどうしても得心いかない。


 「ふむ、やはり生きているか。残念ながら網切の方はご臨終だな。何年後に復活するか分からないが、しばらく主の傍に置いてやろう」


 挟み撃ちの形になった。この電車のなかという一直線状のステージにおいて、前と後ろを陣地的に取られるというのは、我々にとって極めて致命的だ。そんな優位にも関わらず、まるで私と絶花に興味がないように、死体に手を添えて冷静な顔つきだけをする。


 「戦う気ないの? あなた」


 「え? いや、あるよ。今は仲間の回復が一番優先ってだけで、こいつを庇いながら戦うよ」


 生死を分ける手術中に片手間に対戦までこなすなんて、そんなことは不可能なはずだ。あの添木という男と実力が拮抗しているなら、絶花の実力で大幅な差がついているはずがない。どこからその余裕は生まれるのだろうか。


 「お姉ちゃん、こいつを放っておいて次の部屋に進もう。その方が賢いかも」


 「はぁ? 私たちはお前にとって反逆者なんだろ。裏切り者を野放しするなんて、そんなことが許されるとでも? お互いに敵同士なんだから、そこは躊躇とか無しでいいよ」


 そうじゃない。仮に二対一の構図だとしても、こっちが有利だとしても。相手が怪我人を庇って戦っている状態だとしても。それでも、なんかしらの恐怖が胸をよぎるのだ。この正体不明の得体の知れない何かを払拭しない限りは戦いたくないのだ。


 「まあ、裏切り者は私たちではなく、お前たちだと思うけどね」


 「また減らず口かよ」


 「違うね。これに関しては列記とした事実だ。本部が瓦解して、先代の党首様が殉職したのは知っているだろ。今の新しい政権の党首は、実は私たちと同じ緑画高校の出身者だ。だから、発想も私たち寄りなはず。今の政権方針に歯向かっているのはお前たちなんだ」


 どうして『お前たち』という私も含む言い方をするのだろうか。だが、これがもし本当に事実なら、相手を処刑する大義名分がなくなってしまう。絶花の言っていたことが正しさを失う。


 「それを確かめる方法はない」


 「こっちも証拠は提出できないよ。だから信じるも信じないも自由だ。だが、私たちは別に反逆者のつもりはないし、陰陽師のメタ組織でもない。そう思って行動しているっていうのだけは理解して欲しい」


 「おい、誰の許しを得てそいつを回復しているんだ。死んだ奴が蘇って更に今戦っている奴の加勢に入るとか、そんなRPG要素はいらないんだよ!!」


 言い負かされた絶花は遂に自分から打って出た。ただし自暴自棄になったのではない。先程まで会話をしていた女の方ではなく、反対側にいた首切り馬を攻撃したのである。傘で突き立てるように、腹部を強打した。


 馬は鈍い鳴き声を出して倒れる。攻撃は見事に命中した。なのに……どうも心が休まらない。奴の心の余裕を把握できないからだ。ただのハッタリなのか、それとも明白な勝利への確信なのか。あの、一瞬で私と絶花を抜き去った、あの奥義がミソだと思う。


 「あ~そっちを攻撃するか。それは予想外だったわ。首切れ馬、『鬼神装甲』!!」


 聴き慣れていない言葉がまた飛び出してきた。次の瞬間に首切り馬が形を変えて変形する。まるでオーラにように気体状まで媒体化し、そのまま彼女の腕の中に収まった。


 まるで拳銃だ。馬の姿だった式神が緑色の小型の拳銃に変身したのである。拳銃とか絶対に陰陽師の文化にはないはずだ。異文化の混入、まさに現代の陰陽師のスタイルを現すような。


 「妖怪を全く別の武器に変える。この技術はまだ地方の陰陽師には伝わっていないでしょ。新しい戦い方っていうのは、こういうことさ。これは式神との完璧な信頼関係が成り立っていないと成功しないから」


 「噂のレベルでなら耳に入っていたけどな。実物を見るのは初めてだ」


 「それとお前……さっき私の首切れ馬に攻撃していたけど、陰陽師ならまずは名前を名乗ってから攻撃しなよ。セオリーを守っていないのはお前も同じだろ」


 絶花が更に苦い顔をした。あの減らず口の絶花が言葉で圧倒されている、あの女……強さといい、精神面といい、弱点を考慮せずに現れるだけのことはあるかもしれない。


 「苫鞠陰陽師機関。倉掛絶花」

 

 「第八小隊の木属性担当。絵之木えのきピアノ。よろしくね」


 またキラキラネームだよ……。

新規のかたは『鬼神装甲』ですが

単純に「妖怪が武器になった」と思って頂いて結構です

前作にも出てくることなので、知っている人もいるのかな……

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