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騎士

目を瞑って瞑想するように、言葉を発した。まるで、座禅でもしているような、そんな光景を思い出す。


 「いや、まだ微かに息がある。奴はまだ死んでいないか。まあ放っておけばものの数分で死に絶えるだろうが」


 思わず私は驚愕して目が丸くなった、絶花も少し変な顔つきになる。若者特有の『マジで!?』みないな、苦い顔をしていた。


 「…………えっ、そうなの? 処刑したんじゃなかったの?」

 

 後ろを振り向いて血達磨の死体を確認した。ピクリとも動かない、確かに私も絶花も死体に近づいて、死んでいることを確認したわけではないが、どうしてそれがあの女には分かったのだろうか。


 「絶花。ちょっと死体を見て、息しているか確かめてきてよ。瞳孔が開いているとか、血液が流れているとか」


 「ちょっとお姉ちゃん。俺は陰陽師だよ。医者じゃないんだから、その……死体の状態とか見たくないし。お姉ちゃんの方が年上なんだから、ここはお願いしますよ」


 お前は歴戦の戦士ではなかったのか。さっき殉職は当たり前とか言っていなかったか。死体を見たことがないって、そんな馬鹿な。おそらくこいつの場合は、そういう嫌な面倒な作業は部下に任せていたのだろう。


 「というか、なんであの女の人にはそれが分かるの? あの人だって死体に近づいたわけじゃないでしょ」


 「陰陽師のなかでも特殊な職業をしている奴だからでしょ。あいつが」


 バンダナの女は前の席に手を預けながらゆっくりと立ち上がった。


 「陰陽師にはそれぞれ人によって用途がある」


 悪霊の通った後から行動を分析する鑑定班、主に治療を専門とする介護班、周辺住民に被害が出ないようにする結界班、また幻術班。その他記憶消去や書類整理などの雑用や、国の偉い人とお金の交渉をする会計班なんて部署も存在した。


 「私は元より霊能力者としての血筋でね。陰陽師の鑑定士として働いている。いわば、悪霊の痕跡から次の行動を推理したり、足跡を探したり、発生元を洗い出したりする。まあ、平たく言うと探偵役さ」


 だから人の生き死にには敏感というわけだろうか。例え妖怪や悪霊でなくても、魂の通り道が見えるという能力か。


 「よくアニメとかで口から魂が白い気体状の物体になって天空へ飛び立つことがあるだろ。嬉しそうな顔をして、頭に三角ハチマキつけて、なぜか目と口だけ写っていて。あれ、別に珍しくないんだ。私は霊界へと向かう人間の魂を何度も見送ってきた。さすがに顔は見えたことがないけどね」


 最近はそんなに見ないと思う。だが、こいつは確かにそんな力があるのかもしれない。


 「で? だったらどうするの? 示談交渉としてお前を素通りさせてくれるなら、あいつの治療をさせてやってもいいよ。勿論、治療以外の能力をちょっとでも使おうとすれば、ドカン!!! だけど」


 その絶花の言葉が信用できなかった。絶花の言葉を信用して、添木生花を治療しているあの女を、背後から二人まとめて殺そうという作戦にしか思えない。絶花はこの戦いを処刑と表現していた。だから、作戦に手加減とか爪の甘さとか、そんなものを残すとは思えない。


 「嫌だ。そんな誘いにはのらない」


 それを女は冷静に断った。さも、甚だしいという感じで。


 「では治療を諦めて仲間を見殺しにすると? お仲間で温々と仲良くするお前らのモットーは、もう既に瓦解するわけ? やっぱり自分の命が絶対優先だもんね~」


 この悪魔のように女を煽りまくっている、悪役の極みなような男は私の弟です、はい。


 「お前と戦いながら、その上で治療する。それなら私にだけ得があって、仲間も守れるだろう。単純な話しさ。そろそろ添木の命が本格的にマズイから式神を出させてもらうよ。 『首切れ馬』!! 『さがり』!!」


 式神は二匹登場した。いや……一匹なのか。これはどういうシステムだ。


 片方は馬の頭だけの妖怪だ。空中に浮遊している。随分と真剣な眼差しをしている。そしてもう一方はまさにその逆である。真っ黒い毛並みの首だけが無い馬。そういう表現しかできない。


 「これって一匹なの? それとも……」


 「二匹だよ。こいつらは元々、独立した別々の妖怪だ。首だけが『さがり』で、首がないのが『首切れ馬』だ」


 これを教えてくれたのは、絶花ではなく敵である女の人である。


 「首切れ馬はこれでも有名な妖怪だね。俺もよく目にしているし、全国的に逸話がある妖怪だ。昔はこいつが都市から都市へと移る移動手段だった。でも……有名所じゃないのは……そっちの頭だけのほうだね」


 「『さがり』は岡山県と熊本県だけだからね…………おっとそこのお姉ちゃん。なにか言いたそうだけど……」


 「コシュタ・バワー!! かの有名なアイルランドの首なし騎士『デュラハン』の名馬!! コシュタ・バワーよ!!」


 「お姉ちゃん。違う、違う。あれは普通に妖怪だよ、式神だよ」


 やっぱり伝承というものは、国家や宗教に違いがあっても似てくるものだと痛感した私であった。


 「つーか、お前ら仲間がひとりヤラレタっていうのに、随分と悠長だな。その二匹は『木』属性だ。俺の苦手な土属性で来ると思えばそうじゃないのかよ」

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