処刑
網切の様子が時間が経つごとにおかしくなっていく。妖怪に具合の悪さというものが存在するかどうかは、私にとっては定かなことではないが、それでも網切がなにやら激痛に耐えているのだけは伝わった。
「私は……私は……」
「学校の課題だか、残党狩りだか、お前らの使命だか知らないが、他人を殺そうとしたんだ。自分が死ぬ覚悟はできているだろう。そもそも妖怪と仲良くなろうって発想が死ぬ覚悟が必要なことだと思う。人間の絆という物を舐めすぎだ。都合よく考えすぎだ」
外面が良い人間ほど私生活では身内に対して暴虐部人という例はよくある。友達が良い人間ほど性格が良いというのは、世間の生み出した浅い見解だ。
「お前は知らないんだ、嫌われてでも、友達などいなくても、他人との関係がなくとも、それでも誰かを守り続ける、その崇高さを。それは一概に『誰かを巻き込まない』ためだ。陰陽師とは自分との心の所作を研鑽とする。目に見えない優しさ……でも、お前は」
その次の絶花の説教は届いてはいなかった。網切が遂に暴走したのである。だが、その辺一体を暴れまわったではない。静かに、一直線に、まるで巣に帰る小動物のように、主の元へと帰っただけだった。錯乱した網切が求めたのは友情による救いだった。
その鋏は添木生花の腹を貫いた。真紅の網切の甲殻に鮮血が流れる、そして地面は真っ赤に染まった。添木生花からは最後は悲鳴すら出なかった。まるで沈む太陽のように、唇から垂れる血を下目で見ながら、地面に突っ伏した。見た目で分かる。網切の方も死んでいる。陰陽師と式神、その二人の命が同時に沈んだ。
「運気が無くなるっていう状態の究極地点は……『死』なんだ。だから、絶対に運気という物を蔑ろにしてはいけないのさ」
これが厄災を呼び込み、相手を触れずして殺す力なのか。声が出なかった、まさにこれは殺人事件であったのだから。急な出来事に吐き気がやってくる。あの陰陽師は私と私の弟を殺そうとしていた、でも……でも……その呆気なさに、あまりの惨さに声も出ず、ただ両目から涙が溢れていた。
「これってでも悲しいのは妖怪のほうだよね。確かにあの妖怪は一度は死んだけど、妖怪に死の概念はない。大したことない妖怪だから数年で復活するんじゃないかな。信頼していた主を殺した思い出を背負って」
私は単純に心の中に穴が空いた感覚だった。弟が人の命を奪って、そして相手が亡くなったのだから。だから、せめて自分に納得できる言い訳が欲しかった。
「絶花。これって正当防衛だよね」
「正当防衛? お姉ちゃん、正当防衛っていうのは。『正当なる防衛』だから正当防衛って言うんだよ。陰陽師同士の戦いに正当性なんかないよ」
「助かった、助かったけどさ」
「悪く思われる筋合いはないね。奴らは本部に仇なし、重要な田舎や地方の陰陽師機関が使用する移動経路を好き勝手に占拠して、そして反逆行為をしたのだから。陰陽師が悪霊との殉職するのは当たり前。そして、陰陽師の掟に逆らったのならば、処刑されて当然さ」
まさしく処刑だった。彼は彼なりに意思や信念を持って、新しい風潮と共に従来型に戦いを挑んだ。そして……負けた。
「死んで花見が咲くものか、なんて言うけどさ。ここまで友情だの愛情だの熱血精神をひけらかしていた奴だ。死んで本望だろう」
「本望なはずないじゃない!!」
「本望だと言ってあげようよ。そうじゃなきゃこいつがあまりに可哀想だ」
「可哀想って……」
そうでも言ってあげないと、本当に只の無駄死に見えてしまうから…………そんな意味なのだろう。
「お姉ちゃん。本当は俺の傍から離れて欲しくない。この場が相手の小隊の火属性の女が操っているというなら、ここでお姉ちゃんを放置するのは危険な賭けだから。でも………付いて来たくないでしょ。最悪でこれがあと四回続くよ」
見たくない、見たくないけど。
「行く。一人になるほうが怖い」
「そうね。やっぱり俺も一人が怖いよ。友達とかいらないけど、お姉ちゃんがいないと怖い」
★
第三車両、そこにも陰陽師が待ち構えていた。先ほどの添木生花と同じようなバンダナを頭に巻いている。だが、先ほどと違い、今度は女だ。一番後ろの座席に腰をかけて、頭を下げてこちらを見ようともしない。
緑画高校という学校の制服だろうか。夏だという理由からか、かなり短いスカートに半袖の学ラン。髪も短めだ。どこか不真面目さを醸し出しながらも、それでいて屈強なイメージがある。
「体つきから察するに女性かしら。髪型からさっきの駅員さんに化けていた女性じゃないと思うけど。こっちに気がついていないのかな」
「迂闊に近づいたら駄目だよ。なにを仕掛けてくるか分からないから。間違っても素通りなんてさせてくれないから」
先ほどの式神の五行の属性から判断するに、今度の相手は土属性と考えるのが妥当だろう。相手もこちらの実力は分かったはずだ。もう無闇に戦力を失いたくないはず。絶花に最も効果的な刺客を送り込んで、楽に決着をつけたいと思っているはず。
ようやく座っていた女が重い腰をあげた。
「添木は死にやがったか。では私の出番というわけだな」
かの有名な水木しげるさんは
この化け鯨の出てくる回で高熱を出して寝込んだという
逸話があります。
作中でもある通り、化け鯨は厄災を運ぶ妖怪です。
もしかしたら化け鯨の呪いで水木しげるさんは…………
俺、がっつり主人公の式神にしちゃっているんですけど…( ゜д゜)
作者、これに気が付くのが遅かった。
高熱出したら報告します・゜・(ノД`)・゜・




