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頑丈

 さて、この殺伐とした空気でこんなことを言うのはあれなのだが、あの男……どうも名前が異質だ。生花ってどんなキラキラネームだよ。


 「行くぞ、外道!! 網切、今度こそ奴を真っ二つにしてやれ」


 「化け鯨、どうにかしろ!!」


 どうにかしろ、という具体性の無い指示を受け、登場したのはこの前の戦いでも活躍した化け鯨。骨だけの空中を浮遊する魚であり、おそらく絶花の切り札である。能力は災害を巻き起こすとか言っていたな。

 

 化け鯨の骨に鋏が容赦なく噛み付く。先ほどの傘のように一瞬で砕け散りはしなかったが、少し骨に罅が入った。どうにかしろと言われても、突進して身を縦にして守るくらいしか方法がない。


 「なにが出てくるかと思えばただの魚の骨か。笑わせてくれる。網切、そのまま噛みちぎれ!!」


 『網切』という妖怪の気色の悪いギョロッとした目が、錯乱するかのように動いた。まるで新しい玩具を買ってもらった子供も、無邪気な興奮状態のように。


 「普通、ザリガニって水辺にいるものだけど……こいつは空を飛べるのが特徴なんだよね。やっぱり制空権があるっていいよね。あんな直線的攻撃が得意な奴が空から襲ってくるって、やっぱり恐怖感があるよ」


 「お褒めに預かりどうも……そのまま砕け散れ」


 化け鯨が身を呈して守ってくれているから今は絶花には被害が及んでいないが、徐々に化け鯨の罅が広がっている。メリメリと鈍い音がして今にも砕けそうだ。


 「ボディーがガラ空きだな」


 ここで絶花が動いた。押さえつけている網切の懐を狙い、傘を突き立てる。網切はこれを避けることなく、そのまま直撃した。


 「かったい!!」


 だが、ダメージはほぼ皆無。むしろその頑丈さで絶花が反動を受けて、折りたたみ傘が手から外れて地面に落ちた。蟹やザリガニなどの甲殻類って甲殻以外の部位、特に腹などはひ弱であるはずなのに……。


 「私の網切は攻撃力、防御力、スピード、その全てが完璧だ。貴様のように式神を奴隷扱いして道具として扱い、研鑽を怠った者にはわかるまい。この私と網切との友情と努力が!!」


 使い手であるあのハチマキの陰陽師が動かないと思ったが、別に戦いに参加していないというわけでもないらしい。恐らく己の妖力とやらを式神に注入しているのだ。それで抜群の効果を発揮できているのだろう。道具としてではなく、仲間として戦う。自らを輝かせる為に使うのではなく、式神に花を持たせる。それが奴の戦い方なのだろう。


 「お前のように式神を武器や盾としてしか使用できない戦い方が、もう既に古臭い老害の戦い方そのものだ。周到な連携が聞いて呆れる」


 絶花は奴の発言を無視し、即座に地面を前回りして傘を拾った。そのままあの添木という男に突進するかと思いきや、まるで逃げるように化け鯨の後ろを通って、こっちまで逃げてきた。


 「おい。言われっぱなしじゃん。大丈夫なのかよ、というかお前の方が完全にヤラレ役の動きになっている」


 「お姉ちゃん。バトル漫画が好きって言っていたけど、これは陰陽師同士の戦いだよ。攻撃力も防御力もスピードも関係ない。ようは勝てばいいのさ」


 さも正しいような事を言っているが信憑性がまるでない。


 「勝算はあるの? 防戦一方みたいだけど」


 「う~ん。どうだろう」


 ……不思議に思うことが一つある。化け鯨のサイズだ。化け鯨の本来の姿は『ヒゲクジラ』という種のものである。そのサイズは正確には覚えていないが、奴らの食事方法を聞けば大きさがとてつもないと分かる。


 口を開けたまま獲物の群集した海域を泳ぎ、口の前面から入ってくる海水から餌生物を連続的にこしとる、という『こしとり』という食事方法だ。つまりは、クジラが本来の大きさになれば、電車の狭い空間程度で収まるはずがないのだ。この前に結婚式でも大きさに違和感は感じていたが、この鯨は……本来の大きさではないはず。


 だってあの……龍生九子の一匹である『蒲牢』を倒しただけの妖怪なのだから。龍のサイズと比較してみても、絶対にこんなミニサイズではないはずだ。


 「出雲いずも最強の妖怪を舐めるなよ。陰陽師同士の戦いに必要なのはその妖力の分配だ。鋏の攻撃力だの、甲殻の防御力だの……極めてくだらない。脳筋のうきんで勝てるほど、陰陽師は甘くないぜ」


 戦況が一変した。今まで圧倒的に網切が優勢にしか見えなかったのに……、わずが数秒で状況が変わったのだ。網切が今まで化け鯨を掴んでいた鋏を放し、まるで悶えるように苦しみ始めたのである。陸に打ち上げられた魚のように、藻掻き苦しんでいる。その断末魔のような悲鳴は、私にも恐怖を植え付けた。


 「どうしたことだ!! 網切!! なにがあった!!」


 陰陽師のほうも動揺している。今までの余裕は消え去り、額から脂汗が見えた。目が飛び出るような勢いで驚愕している。例え劣勢になるとしても、もっと直接的に理解できる内容だと思っていたのだろう。


 こんな理解不能な状況は想定外だった。


 「化け鯨が捕獲不能たる所以はその『妖力の大きさ』や『図体の強大さ』ではない。勿論、それも普通の妖怪じゃ比べ物にならないくらいだが、もっと恐ろしい伝承がある。網切は確かに見た目はそこそこだが、伝承としてはショボイだろう。せいぜい漁師の網を切った程度のイタズラレベルだ。だが、化け鯨は違う」


 そうだ、私もあの事件の後に少し調べたのだ。蒲牢を調べるついでに、『化け鯨』についても。この妖怪は……町一つを疫病と火災で潰しているのである。その力は物理ではない。まさに天災を呼ぶ力。直接的に手を下すのではなく、呪いを振りまく妖怪。


 「さ~て。ちなみに妖力が伝達してあるお前にもこの能力は付与されているぜ。いわばお前の幸運ゲージは無い。人間には本来、陰陽師ではなくても、神様のご加護とかご先祖様の力とか、運命の赤い糸などが不透明に存在する。だが……お前にはこれがない。いわばお前の運気は最悪だってことだ。その『死期』までもな」


 手相占いを知っているだろうか。その手相占いに『生命線』という言葉があることを。つまり人間の寿命というものも、占いなどによる神秘的な物によって無意識にガードされている、とも考えられる。よく日常的にも『悪運が強い奴』なんて呼ばれる人間があるだろう。それは見えざるご加護が多い証拠だ。


 つまり……。


 「さて、この錯乱した網切はその鋏を次は誰に向けるかな」


 「やめろ、助けてくれ……。私の負けだ。能力を解除してくれ」


 「俺、初めに言ったよな。お前と妖怪の信頼とやらを壊すって」

 【太刀風居合の豆知識コーナー】

 ※本編とは関係ないです

 この化け鯨ですが、実は

 (((龍生九子の一匹である『蒲牢』と戦った)))

 という伝承はありません。

 蒲牢ほろうという妖怪が鯨と戦った伝承は事実ですが

 化け鯨とは断定はできません。もしかしたら大当たりかも。

 明日はもっと凄いことをあとがきで言います。

 実はあの水木しげるさん(ゲゲゲの鬼太郎の作者)……

 この化け鯨と関係があって……

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