交通
閉じ込められた、ここから出られない。本部とやらにたどり着いたらどんな酷い目に合うか震えていたが、まさかその前にこんな目に合うとは。我ながらついていない。
「悪霊の仕業じゃないとすれば……まあ、妖怪を使っている時点で陰陽師の仕業だろうけど。これは俺がさっき言っていた『皆でお手々繋いで頑張ろう集団』だろうな」
「妖怪と仲良くする団体って奴? どうしてそんな友好的な人たちが私を襲うのよ」
「狙いはお姉ちゃんじゃなくて俺だね。でも……あの百鬼夜行とか言われる連中は本部から存在を認めて貰う前に、かの戦乱事件が終息して解散したって聞いていたけど……。まさかその残党がまだ行動を続けていたのか‥」
弟が浮かない顔をしている。絶花にとっても予想外の自体だ、普段の余裕が見られない。顎に手を当てる探偵のようなポーズで目を細め、唇を噛み締めている。
「絶花。それじゃあ……もしかして私たちを狙う理由って……」
「さっきの会話が聞かれていたみたいだね~。俺みたいな差別主義の古い考えかた奴が気に入らないんでしょう。俺が腹が立っているのと同じで、奴らも俺の言葉に腹を立てていたみたい」
確かに罵詈雑言は酷かった、馴れ馴れしいとか、甘っちょろいとか、そんな考え方が悪霊を悪化させたとか、好き放題に罵っていた。もしこの電車内にいる半思考主義の連中に聞かれれば、そりゃあ一泡吹かせたくなる気持ちもわかる。
「だからって私は完全に無関係じゃない」
「うん、だからお姉ちゃんだけ先に安全に京都に向かっていて、って本当なら言いたいけど、ここから脱出できない以上はそれは叶わないね。恐らく戦闘になるから」
この霊界において、本部までの線路や駅は崩壊していると聞いた。まだ復旧の目処すらたっていないと。だから、残党は列車を占拠したのだ。地方で散らばっている主義の合わない連中が本部へ向かう際に、こうやって罠にかけて叩きのめすために。
公共交通機関には細工の使用がない。そのままトンネルを抜ける際などに包囲網を張り巡らせ、移動中に霊界へと陰陽師だけ誘う。そこから逃げられないように隔離する。作戦としては合理的だ。
「このまま黙って許しを請うとか、俺のキャラに合わないし。本当ならこの幽霊列車ごと攻撃して誘拐犯を炙りだしたいところだけど、こんな上空だとそれも叶わない。このまま落下したら俺たちも死ぬ。やれやれ、お姉ちゃんは陰陽師じゃないから、これは重大な規則違反なのにさ」
かなり計画性のある犯行だ、唯一汚点をあげるとすれば……陰陽師ではない無関係な私を巻き込んだこと。陰陽師って一般人にその存在を知られてはいけないルールのはずだ。それなのに私が弟の同行人というだけで巻き込む判断に至った。明らかに奴らも規範意識は薄いみたいだ。
まあ、それを言うなら陰陽師ではない私にベラベラと陰陽師のウンチクを語る私の弟は完全にアウトなわけだが。
「ねぇ。これってアリなの? 陰陽師の常識として」
「一か月前なら極刑に処されるほどの体罰ものだよ。まだしっかりと本部があって、地方にまでルールが行き渡っていて、厳格な組織体系だったならね。でも、今は党首様はお亡くなりになり、本部も壊滅状態だ。誰も陰陽師を上から監視する人間がいなくなったんだ。そりゃあルールなんて守らないし、非人道的な真似もお茶の子さいさいって感じかな」
『お茶の子さいさい』って死語の代表格みたいなものだろうに。
「取り敢えず相手になんの動きもないから…………車両を抜け出して他に誰かいないか見てくるよ。お姉ちゃんはここにいて……いややっぱり付いて来て。相手におねえちゃんを取られて、人質にされたら堪んないから」
いよいよ絶花から殺気立った感じが伝わった。相手は未知数、こっちは足でまといを一人抱えている。神経が逆立つのも無理はない。
「八つ橋、京飴、豆餅、団子。俺の食欲を邪魔した罪は重いぞ」
こいつ、ただ早く京都にたどり着いて土産にありつきたいだけなのでは…………。そもそも本部への進言とか、給料を貰いに行くとか、全部ただの口実なのではないだろうか。本音が垣間見えた瞬間である。そういえば昨日の夜に目を充血させる勢いで何やらパンフレットみたいな物を見ていたが……お菓子の広告だったか。
★
『ご乗車ありがとうございます。こちらは地獄行き列車、地獄行き列車となっております。車両が大きく揺れるのでお気をつけてください。また、今日ご乗車になられたお客様方には、もれなく最高のオモテナシをご用意させて頂いております。どうぞよしなに』
耳に聞き覚えのある声のアナウンスが流れた。さっきの駅員と同じ声だ。奴も陰陽師関係者だったのか。
「あの人……電話で話した時は友好的だったけどなぁ。本部まで行くから車両を用意してって言ったら、ファーストクラスをただで用意してくれるって言ってくれて」
「昨日の時点で罠に嵌っとるやないかい!!」
確か陰陽師関係者に連絡を取って優先席を用意して貰ったと言っていた。だが組織の中枢機関が瓦解した今に、その陰陽師の交通網を指揮する連中がいったいどっちの派閥にあるかなんて、分かったものではない。どうやら私の弟の旧陰陽師論ではない考えかたの連中だったらしい。
『ふふふ。お二人様ご案内です』




