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拡散

私の弟である倉掛絶花の異質さは郡を抜いている。自分勝手で我が儘で気まぐれで、空気を読まないし、場の雰囲気になど合わせない。陰陽師という隔離された空間で優柔不断に生きていたことから、悪霊を倒すこと、その一点のみだけに特化した人間になっている。私生活はボロボロだ。


 「お前、絶対に友達とかいないだろ」


 「友達? いないね。俺は嫌われ者だから」


 「私も少ないから偉そうなことが言えないけど、それって寂しくない? 少しは自分から変わろうって思わないの?」


 「お姉ちゃん。俺って中学生なわけだけど、中学校生活の中で完成した友達関係なんてほぼ意味はないんだよ。同窓会とか成人式とかにちょっと声をかけるだけ。そんな意味のない存在を重宝することはお門違いってものだよ」


 友達が多い人間が『良い人』。だって多くの人からその性格を認められているから。みんなと仲良くできる人間は協調性があって発想が柔軟で理解力と応用力がある人間だ。


 「今の日本は変わった。一昔は『いじめ』とか『自殺』とか、そんなものは無かったもん。喧嘩は不良同士がすることだったし、先生は崇高な存在として一目おいていたし、皆が誰とでも仲良くすることを念頭になんておいていなかった」


 親しみの距離。気の合う友達と仲良くしろではなく、誰とでも仲良くしろに変化した。互いに距離をとっていた人間たちが急に馴れ馴れしくなっていった。親しい人間とだけ仲良くすることから、誰とでも仲良くが推奨された。


 薄く広く。


 「一昔は伝統芸の職人さんは他の存在とは全くコミュニケーションを取らなかった。それが最近はテレビの取材に応じなくてはならない。昔はアイドルは雲の上の存在だった。それが今では握手会の全国ツアーだ。まるで、世界がどんどん『馴れ馴れしく』なっていく」


 「SNSとかもそうよね。結局は繋がることが目的だから」


 だけど、人間はそんなに都合良い存在じゃない。過去と現在を比べて精神的にスペックが上がるということはないだろう。だから、その弊害が存在する。誰とでも仲良くできない人間は孤立する。


 「お姉ちゃん。人間は『個性』を大切にする生き物だよ。他人なんか関係ないんだ。集団にいてこそ個性が発揮されるとか、机上の空論だよ。人間は他人と関わるだけ、その習性が薄れていくんだ」


 「そうね」


 「そんな社会現象がようやく遅れて陰陽師にも浸透してきたんだ。この前の『妖怪と仲良くなろう運動』だ。反吐が出るね。俺はそんなことを絶対に認めない」


 「妖怪と仲良く?」


 「そう。俺たち陰陽師はそれを絶対に良しとはしてこなかった。それがこの1000年間の歴史だ。だが、それを打ち破らんとする一派が現れたのさ。『皆で仲良くお手々繋いで』。その方がもっと陰陽師機構を景気良く潤滑できるって考えの持ち主さ」

 

 弟が眠そうにあくびをした。気だるそうな顔をして、何かに嫌悪感を顕にした。新しい考えかたの到来、弟は過去の発想の主義なのだろう。


 「馴れ合いで悪霊が倒せるなら苦労はないよ。そもそも悪霊が発生する原因は『恨み辛み』だ。それって自分ひとりではならないだろう。誰か別の人物と混じり合って初めて発生するものだ。だから『裏切り、仲間外れ、集団いじめ』、そんなことが起こる」


 だから、人と希薄で拡散的な関係を持つことを良しとする日本は……。


 「ここ最近になって悪霊が増加した。これは紛れもない事実、というかデータ。数だけじゃない、質も上がっている。レベル3の悪霊なんて、そもそも現代までいなかったのだから。極めつけに陰陽師機関本部の崩壊。日本の馴れ馴れしさによる社会現象が世界崩壊のもっともな原因さ」


 あのやる気のない弟から……熱気を感じた。


 「親しい関係をつくることは大切だと思う。でもそれは人数を絞るべきだ。誰でもお友達なんてするべきじゃない。お姉ちゃんは俺の大切な家族だ。だから大切にする。でも……俺はそれ以外の人間にはなびかない」


 私は分からない。陰陽師の基礎知識もない私には、社会現象とか機関方針とか、そこまで考えが至らない。でも、絶花の言いたことはわかる。友達の定義を履き違えた、コミュニケーションを推奨し過ぎた今の日本の弊害による苦しみが。


 愛、というものはそんなに薄く長く伸びるものじゃないのだ。


 「陰陽師機関が惰性した原因は、まさしく馴れ合いだよ。『連携』と『馴れ合い』は違う。各個人が個性と役割を持って仕事をする、これが本来の陰陽師のあり方だ。皆で傷の舐め合いをして、甘い言葉で自分たちを堕落させた。集団の深層心理を悪質な惰性に切り替えてしまった。陰陽師の確固たる集団戦法はお仲間ごっこじゃない」


 「…………難しいね」


 「あぁ、ごめん。不満を語って……愚痴を言っちゃって。だから、とにかく、俺はお姉ちゃんみたいな人が好きだ。我が道を行く戦士が」


 私は弟にそういうふうに思われているのか。


 「だから俺もそういう人生を歩む。俺は俺が大切な人しか守らない。俺の仲間だけは俺が守る。それだけさ」


 私の弟はヒーローじゃない。不特定多数の見ず知らずの人間まで守ろうとするヒーロー体質ではない。でも……最近の主人公ってこんなものなのかな、とも思った。『市民の平和を守る』ではなく、『仲間は俺が守る』か。相容れないのかもな、この発想同士は。 

 ちょっと最近になって更新をする私です。

 春休みなので、時間ができました

 勉強もしてますよ、はい。

 今回の話ですが、前作の問題点であった

 『なんで悪霊が跋扈するようになったのか』を

 絶花視点で解釈しました。

 倉掛絶花は橇引行弓君と真逆の発想の持ち主です。

 前作を見ていない方には申し訳ないです

 「ここ、わからないよ」という部分は遠慮なくご報告ください

 作者的にはどっちが正しいとも間違っているとも思っていないですwww

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