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満喫

 ★

 

 時に自分がヒステリックな人間なのではないかと思う。短気で強情で感情の変容が激しい。昔からあまり自分が出来た人間だとは思っていなかった。勉学や運動神経の話ではなく、自分の精神の話である。


 友達が少ないという話だ。別に友達が多い人間が魂が高尚だとは思わないが、やはり社交性のある人間が社会から評価される時代なのは時代だろう。最近は大学教授でも、研究成果と同じくらいプレゼンテーション力が求められる。内容云々の前に人とのパイプを大切に考える社会となりつつある。


 こんな世の中で……。


 「お客様、お飲み物はいかがですか」


 「甘いものは全ておいていけ。全てだ……」


 私の弟は限りなく化物並に……『空気が読めない』。


 「おい。駅員さん困っているだろ。やめろよ」


 というわけで、新幹線の中である。私と弟はこの間の戦果報告とお給料要求と私の身に起こった異常現象とこれからの危機の進言を込めて、陰陽師の本部とやらへ向かっている。


 昨日の今日だったのでろくなお出かけ用意は出来ていない。持ってきたものと言えば、貴重品をいれたバッグと暇潰しの本。救急箱と防犯ブザー。携帯食くらいだ。最低限の化粧もできなかった。なぜなら時間が無かったから。


 昨日の段階で何時に電車に出るなんて話はなにも聞かされていなかった。いつもは叫んでも起きてこないあの馬鹿が、早朝4:30に寝ている私をたたき起こし、『タクシーを予約しているから』、『もう家の前で待機させているから』、『時間がないから、用意とか最小限でいいから』、なんて急かされ急かされ、あれよあれよという間に出発していた。


 そこからも果てしなくマイペースである。電車の中でカステラを食べだしたと思ったら、音漏れがうるさい高校生に腹を立てて電車が揺れた際に思いっ切り足を踏みつけ、そのまま論争となり、私が仲裁に入るよりも先に駅員さんに追い出された。


 だが、追い出された矢先に私の腕を掴み、そのまま電車へと戻る。駅員と高校生を置き去りにしたまま、電車のドアは閉まった。ざまあみろと笑顔で手を振っていた弟をみると、やはり世間知らず。陰陽師機関とやらに隔離されたコミュニティで生活していた弊害としか思えない。


 電車内のマナーを注意するのは良い心がけだが、通勤中のサラリーマンに混じってカステラ食べていた人間が他人を注意するな、と心の中では思ったのだが、公共交通機関で大きな声を出して実弟を叱れない。このもどかしさ。


 今は新幹線に乗り換えて、予約席に座っているので、それほど窮屈な思いをしていないが。


 「おい。どんだけお菓子を買っているんだよ。お前、一応は仕事へ向かっているだよな。というか、私もうすぐ二学期が始まるから……遠出するような時期じゃないんだけど」


 「いや、実際におねえちゃんがどんなに恐ろしい事態になっているかを現物で見せないと分かってもらえないでしょ。論より証拠、百聞は一見に如かずだよ」


 そんな理由で私が納得するとでも思うのか。実際には私の体には何一つの影響はない。外見が変わったわけでも、私生活に支障が出るなにかを患ったわけでもない。物語を進めていくには、あまりに動機の薄い、厳密には目に見えないのが現状だ。それをお菓子の包み紙を座席に散らかし、心から幸せの絶頂という和やかな顔をして、スナックを頬張っているお前に言われたくないのだ。


 本部とは、陰陽師の最も新聖地、京都……の裏側にある本部。御門城なる場所に健在するらしい……知らん。裏側の世界という発言から、私は弟の説明に耳を傾けるのをやめた。奴も真剣に説明しているつもりは無かったらしく、それ以上の説明をしなかった。


 「おい、弟よ。私ってこれから人体実験だの気色悪い儀式だのをされるのか? そんな目に遭うなら今からでも帰りたい……」


 「さぁ?」


 「だからなんでそう他人事なんだよ、お前は!? お前が無理やりに連れ出したんだろうが。この前に死後婚は半分くらいは自主的だったのは認めるけど、今回は完全に連行のかたちなんだからな」


 「お姉ちゃん。イライラにはチョコレートだよ。糖分を摂取しなきゃ」


 私の訴えなどまるで何処吹く風で、自分はスナックを地面にボロボロ零しながら甘いひと時を満喫している。家族旅行で京巡りしに行くのではないのだ。本部とやらに私が被害者であることを告げて、妖怪も悪霊も私から取り払ってもらうのだ。


 柵野眼と言ったか。どうしてあんな奇妙な存在が私のような一般人を狙うのだろうか。単なる復讐心にしてはしつこいと思う。だが、それに対して私が負い目を感じる必要はないはず。被害届けを出せば陰陽師たちが勝手にどうにでもしてくれるだろう。そして私に懲りずに付いてくる和式の化け傘と、目障りな中国の龍を引き取って貰えば、私の予定は完了だ。


 確かに私はバトル漫画や白熱したシーンが好きだ。だからって現実との区別はついている。よく考えてみれば私がこいつに付き合う理由など皆目ないのだから。


 「おい、絶花。お前の思惑通りに私が動くと思ったら大間違いだからな。私は……おい、絶花?」


 「………………ふがぁ?」


 「寝るな!!」


 お菓子の空箱を広げたまま、服に屑を付着させたまま、私との会話を完全に無視したまま、寝るな寝るな寝るな!!!


 「お姉ちゃん。大丈夫、俺が出したゴミは全部、駅員さんが片付けてくれるよ」


 「嫌な客っ!!」

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