健気
散乱したゴミの先には……本棚があった。その本棚に置いてあるのは漫画しかない。それも……バトル漫画。私の愛する作品たち。
「姉君。もしかして……漫画鑑賞が趣味ですか」
「…………そうね。世界の平和を救う感じのそれね」
漫画好き。それも人間が熱く戦う感じのバトル漫画が好きだ。青春をかけて修行に打ち込み、魂を持って確かな正義を胸に戦う。そんな戦いを望んでいた。
「姉君」
「お姉ちゃん。それじゃあ……もしかして俺たちみたいな誰かの陰謀だらけの、邪な連中での戦いとか嫌いなのって……それが原因?」
ヒーローとは、真っ直ぐで頭が高くて融通がきかなくて、それでも誰かの助けを求める声に向かって飛んでいく。そういう物だと思っている。
「陰陽師ってさ。時代遅れなのよ。なにが世界を救うよ。私は……これまで現実と精一杯戦ってきた。母親がいない中で、稼ぎの少ない父親と生きることに必死だった。受験戦争だって頑張って立ち抜いた」
不利な苦しい状況でも諦めずに努力のちからで頑張る。不可能を可能に変えるエールを漫画から得てきた。現実はあまりに苦しかったから。せめてもの現実逃避を二次元の世界に求めた。逆境を跳ね除ける、その気高さが私には欲しかった。
「自分を高く評価するには、まず自分を信じること。自分が何者なのかを知って、その上で自分の信念に基づき、己の魂を燃やす。私は『倉掛百花』を見つめてきた。自分を正確に理解していたから、虚勢を張れた。成りえない自分を目指せた。でも…………」
今は分からない。どこに正義があるのか。どこに自分がいるのか。誰が見方で誰が敵なのか。私がなにがしたいのか。今までの戦いとは違う。フィクションな設定が私の日常に黒幕を引いたのだ。
「今までの私の戦いとは違う。暗中模索、この真っ暗闇を私は歩まなくてはならない」
母親のいないけど、努力して頑張る健気な少女。それが私の肩書きだった。それが霧散した今のこの状況で私は自分は何者なのか分からないままで、ただただ目の前に生死を分ける危機が訪れた。
「探せばいいさ。自分が何者なのか」
…………はぁ。この無責任な言いようは蒲牢である。
「読者である時期は終わったって話しさ。今度はお前がエールを振りまく番だ。ヒーローは漫画の世界じゃしっかりしているようだが、実は内心ではビビりまくっているかもしれない。コマに映らないシーンで考えて悩んで泣いて俯いているかもしれない。いつだってヒーローは真っ暗闇の中を戦っている」




