電脳
★
御門城なる場所に行くことになった。
なんて軽く言ってみたが正直憂鬱だ。肝心の弟は役立たずな上に、やる気があるのか、ないのか微妙なのだ。この前に陰陽師機関とやらに行って、極めて散々な目にあった。悪霊に襲われるは、妖怪に宿命を託されるわ。もう踏んだり蹴ったり。
もう関わらなくていいならそれでいいと思っていたが、現実は残酷である。世界を崩壊させようと企む悪霊に第一の被害者としてロックオンされたのだ。しかも現段階でこれといった解決策は無し。それどころか、最高峰機関でも倒せるか曖昧な領域なんて、私はどうやったら生き残れるのだろうか。
そもそも自分の持つ潜在能力の凄味や希少価値やメカニズムをまるで理解している。それが自分で分からない状態で、敵から狙われていることになる。
「私がなにをしたって言うのよ」
「姉上。気を落とさないで。絶花様はきっとなにか秘策を持っていらっしゃいます。それに……悲観するのも結構ですが、まだ時間があります。奴はまだきっと『変身する為の素材』を揃えきっていない。奴はまだ……完全体になりきっていない」
完全体って、また中二病みたいな発言が出てきたな。それなら必勝法としては完全体になる前に叩くのが正解だと思うのだが。それは無理なのだろうな。だって、奴はどんなミクロな存在にも変身できる。今頃電脳空間に逃げ込んでいるだろう。だったら倒しようがない。
私と弟は部屋に戻った。今更なにをする気にもなれずベッドで横になりながら、今日の出来事を思い出していた。弟と色々と話し合って一応はこれからの方針も決めたのだが、それでも私の心は不安で埋め尽くされていた。悲観視しているつもりはないが、どうも心が休まることはない。
「それじゃあ俺様と一緒に中国に逃げますか」
「いや。それは絶対にいや」
そうだった。こいつもいたのだった。私の式神である蒲牢。
「お前……あの骨だけ鯨と決着をつけたいんじゃないのかよ」
「人間サイズで年月を考えちゃ駄目ですよ、お姉さん。俺たち妖怪はほぼ死なない。だから俺は100年単位で時間を計算していない。奴を倒すのに、そんなに時間的に焦ってはいないのさ。まあ、倒したいって気持ちはあるから、それよりも、もっと道中を楽しみながら、パワーアップしつつ、奴を倒すのさ。お姉ちゃんと一緒にな」
「勝手にやっていろ。私を巻き込むな」
どうもこいつに操られている部分があって気に入らない。私が襲われそうになっているこの状況を、こいつは明らかに利用している。
どいつもこいつもタチが悪い。真っ当な精神を持っている奴がいないのだ。誰かを利用しようとしている奴ばっかり。
「正直、私の弟も信用できない部分はあるんだよね」
あいつは甘党という部分だけが気持ち悪い印象ではない。どこか見透かしたような態度をしていて、極力面倒事には首をつっこなまい利己主義者。私のことは気にかけているようだが、それだっていつまで続くか分からない。
「はぁ……。私の平和な日常は何処へ……」
「姉上。世界を救うヒーローになれるチャンスと考えれば、前向きに楽しいじゃないですか」
「だからそういう気持ちが嫌いなんだって」
戦いというのは、そういう裏工作とかがあってはならないだろう。私が知っている漫画でのバトルは、熱く、泥臭く、血腥く、魂と魂が衝突し合う物だと思った。『勝ちたい』、『負けたくない』。それだけの気持ちでするべきだ。
誰かに操られたり、なにか邪な気持ちが後押しする感じは、本当にバトルそのものを根底から愚弄するような感じだ。場面が冴えないのだ。世界を救う戦いがこんな真人間とも言えない連中でおこなっていいのだろうか。
「不可解なことが多すぎる。私っていったいなんなのよ」
自分のことがわからなくなった。陰陽師としての素質が無いと言われたはずなのに、それでも何故かルール違反のように陰陽師として覚醒している私。なにか大きなカタルシスがあったわけでもない。ただ……成り行きでこうなった。
「それは……もしかしたら御門城に行けば分かるかも知れません」
「潰れたっていう本部?」
「えぇ。そこでは陰陽師の全ての知識と技術が詰め込まれています。そこに行けばなにか分かるんじゃないでしょうか」
「……でも、そこって潰れたんでしょ?」
「えーまーはい。きっと大丈夫ですよ」
慰めているつもりだろうが、こいつの言う言葉も信用ならないんだよな。
「そうだ。お姉ちゃん。弟とか御門城の本部のお偉いさんとか。そんな曖昧な連中を頼る必要はないんだ。俺がいるじゃないか。この中国が誇る大妖怪の蒲牢様の力を使えばいい。俺とお姉ちゃんが完璧に妖力としてリンクすれば……これで負けるはずがねぇ。俺に任せておけ」
一番に信用ならない奴は黙っていろ。あーもー、だれもアテにならない!!
枕を持ち上げて投げ捨てた。何も考えず狙いを定めなかったので、飛んでいった枕はゴミ箱に命中。倒れたゴミ箱から塵が散乱した。




