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傷跡

 ★


 八岐大蛇は土地と合体した妖怪だ。山脈そのものが生き物と化しており、動けば大災害のようになる。首の間から川が流れて、毒々しい色をしている。その山には紫色の霧が発生しており、まるでゲームに出てくるような危険地帯だ。木々が倒れている、方面には焦げ跡のような物も見える。奴の通った後は地震でも起こったような後が残り、地上に巨大な亀裂が入っている。


 更には死体の山。妖怪たちが血まみれで倒れている姿が確認出来る。恐らく殺し合った跡、毒に汚染した跡、火炎で焼け焦げた跡、水圧に押しつぶされた跡、倒れた樹木の下敷きになった跡、地面に出来た崖に落下した跡。数えられない程の死体の山が築いている。


 「妖怪は死んでも復活する。八岐大蛇が復活したように。でも、それが何億年後になるかは分からない。妖怪であっても殺していい理由はない」


 (酷すぎるよ。ここまで残酷な光景は見たことがない……)


 「そりゃあアンタは箱入り娘だからね。まぁ、私も見たことないけど」


 大災害の跡は悲惨なんて言葉で収まる領域では無かった。陰陽師の衰退なんて軽い話じゃない、もう日本という国のそのものが崩壊している。まさに『この世の終わり』だ。


 「これが霊界じゃなくて……現界だったら……」


 (震災や津波どころ騒ぎでは済まない)


 唖然とした、こんな化物を止められるのかと。しかし、気になる点がある。八岐大蛇は首が九本あるから、その名前を有していると言うのに、奴の首は六本しかない。それも不自然に切り落とされた跡がある。それだけでなく、尻尾の部分も大きく傷が着いている。白溶裔に乗って上空から見下ろしているので、傷跡がよく見える。


 (倉掛絶花が途中まで討伐していたのでしょう。天羽々斬があっただろうから、途中まではちゃんと倒しきるつもりだったのかもしれない)


 「私のせいだ。私が生まれたから、絶花はこんな事を……」


 これは倉掛絶花と土御門カヤノだけの責任ではない。彼女たちは天叢雲剣を欲しがっていた。それは間違いなく柵野眼の討伐の為である。倉掛百花が柵野眼になってしまったから、責任を感じて倉掛絶花は決心したのだ。彼を苦しめていたのは自分だ。それすら気がついていなかった。


 「倉掛絶花がこの怪物を呼び覚ましたんじゃない。コイツが復活したのは、私が原因だ」


 (………………)


 父親に何の罪もなく殺されて、それを悔やんで原因っぽい陰陽師という組織そのものを恨んだ。その私が多くの妖怪を殺してしまった。人を呪わば穴二つ。誰かを恨んで殺したって、またその連鎖が続くだけ。不幸を吐き出した結果が、この惨劇だ。


 「ねぇ。悪霊ってどうして出来るのかな」


 (人間の本質が悪だから。勘違いの正義心で他人を傷つけるのが大好きな生き物だから。自分の身の安全のために平気で誰かを犠牲に差し出せるから。人間は誰しもズルい生き物だから)


 「そうじゃない人もいる」


 (そう。でも、そういう人間は漫画の世界では優遇されるけど、人間社会では淘汰される。人間も食物連鎖と同じだよ、弱い者が死に、強い者が生きる)


 心の中の悪意を増大させる。悟りを開きたいのではない。何かを考える事で威力が増していくのだ。心の中の竜宮真名子と対話しながら、右手に妖力を集中させる。思考を止めない。常に考え続ける。


 「そうね。正しい人間は必ず存在する。でも、そういう人間は少数派で淘汰される。そういう人間は決まって正義には認定されない。強い者が正義だから。大衆の指示を受けている物が正義だから」


 (人間は誰しも正義の味方の主人公なの。無関係なテレビの不倫報道に腹を立てる。更生する為に叩くのではなく楽しいから。自分が悪を懲らしめる正義の味方になれるから)


 「災害が発生した時に、村人は王を殺した。お前のせいだと。人間は誰かを攻撃せずには生きられない生き物だ。自分が主人公になる為に」


 悪意が肥大していく。指先に波動が圧縮されていく。電子が触れ出す。


 「悪霊とは言わばその逆の状態だ」


 (主人公を淘汰する存在だ。その最高の物語をページにないコマから破壊する。自分が主人公ではなく、ただの人間であった事を教える存在。心の裏側に潜むもの。正義とは逆の自分の為の攻撃。人間の脳にインプットされた正義心ではなく、傷つけた者への復讐心)


 巨大な電界が出来ていた。言弾を遥かに超える電磁砲である。それを充血した目で八岐大蛇に向ける。


 「妖怪を殺して悠々と進んで、さぞ気持ちがいいだろう。八岐大蛇。まるでアイツは自分が主人公だと気取っている。だが、それは違う。誰も勝てない生き物が主人公ではない。誰かの為に生きられる生き物が主人公なんだ」


 電気の塊が八岐大蛇へと落下していく。その電撃は神々の神獣さえも苦しめた。酒癖だけが弱点だと思えた八岐大蛇が苦しみ果てている。霧は電気を浸透させ、川は電気を流し込み、毒物にも電気は入り込む。地面に接している為に電気は瞬間的に消えゆくが、それでも彼女の追撃は止まらない。


 「言波ことのは

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