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野槌

 夜憧丸が刀を引き抜いて、鎧武者に似合わず全力疾走で橋の終わりまで駆けていく。かなりの巨漢が走るので、爆音を鳴らしながら、カシャカシャと鎧が擦れる音がする。見た目がオンボロで古びた建築物であるはずの開門海峡が、いつ倒壊するか不安で仕方がない。だが奇跡的にも渡り終わるまで壊れなかった。野槌に向かって刀を振り下ろしす。


 「チィー」


 これもアッサリと躱された。スピードの差が果てしない。基本的に鈍足の夜憧丸では野槌を仕留められない。目も鼻もないのに、よく危機を察知出来る物である。


 「蛇は温度を感知する能力に優れています。触覚が発達しているのですよ」


 「ソイツは蛇じゃなくて、ツチノコの仲間だろうが」


 「なんだっていいでしょう」


 今度は野槌のジャンプからの突進が夜憧丸に直撃する。しかし、そのまま何事も無かったかのように、地面に降り立った。夜憧丸も全く痛がっている気配はない。


その場にいる全員がこう思った。この勝負は決着がつかないのではないか、と。夜憧丸は防御力で、野槌はスピードで、互いを凌駕している。そんな二匹が戦い合っても終わりが来るとは、およそ思えない。夜憧丸には透明になる技術があるが、あの目がない蛇には効果のある能力ではないだろう。それと、野槌にも猛毒を生み出す能力があるが、甲冑の妖怪である夜憧丸には意味がない。


 どう考えてもこの二匹に優劣があるとは思えない。お互いが天敵であり、お互いが無益なのだ。膠着状態を脱するには陰陽師の助けが必要である。


 「「本体を狙う(殺す)しかない」」


 相良十次は土御門カヤノを殺す訳にはいかない。彼女に党首任命に立ち会って貰わないといけないから。逆に土御門カヤノは相良十次を殺そうとしている。ここに明確な差が生まれた。夜憧丸は土御門カヤノを、野槌は相良十次を狙った。夜憧丸は刀を持っていない方の腕で掴みとろうとする。野槌は尺取虫のような動きで大ジャンプし、相良十次の頭上に飛び込んだ。


 相良十次の姿が巨大な濃い影で真っ黒になる。天を見上げるとそこには、巨大な顔のパーツのない蛇が口だけを大きく開けて、まるで顔全体が口で出来ているような光景に見えた。無数の鋭い歯が見える。よく見たら蛇というよりも、ミミズやワームに見えた。


 「喰いちぎれっ!!」


 その残酷な言葉と共に、互いに妖怪が迫り寄る。土御門カヤノは迫り来る夜憧丸の手の平を、天羽々斬で叩き切り弾き返す。鈍い斬撃が響き渡る。安堵した彼女だったが、もう片方の腕に全身を掴まれて身動きが取れない状況になる。


 一方、相良十次は……野槌の特攻をアッサリを回避していた。身体能力が上がったのでも、脚力で逃げ切った訳でも、何かしらの対抗手段で防いだのでも、目目連の力を使って亜空間へと逃げたのでもない。ただ頭を低くして、少し屈むような体制を取っただけだ。それだけで大蛇の捕食から身を守ったのだ。


 「なんだと……」


 普通は怖くて出来た物ではない。当然、相良十次が抜群の反射神経を持っている訳でも、戦闘馴れした格闘家な訳でも、長年の経験から第六感として身体が危機を覚えているとかでもない。そんな超人説などではなく、もっと能力的な回避方法だ。


 「緊急回避信号エマージェンシーコール


 この効果を扱えたのは単に肩から垂れ下げている羽衣が、相良十次に絶対的安全を提供したのだ。


 「それ、悪霊の波長をしている……。まさか悪霊の死骸を……」


 「死骸とは失礼な事を言うな。コイツは俺の仲間だ。悪霊だったが、それでも俺と共に戦ってくれた、今も俺と一緒に戦ってくれる仲間だ。昔は面来染部つららいせんべっていう名前があったんだぜ」


 「コイツ、悪霊を仲間とか言い出した……。アタマ、オカシイんじゃねーの」


 これには周りの緑画高校の連中もドン引きしている。軽い悲鳴や、感嘆と驚愕の声が飛び交う。取り乱さないのは、事情を知っている理事長と、鶴見牡丹、白神棗だけだ。あの許容性の高い矢継林続期ですら度肝を抜かれている。羽衣『かぐや』の能力は、絶対回避。厄災を弾く能力があり、未来予知のようにあらゆる事項を先手を取って無意識に躱してしまう。


 「えぇ!!」


 のっぺらぼうに腕を掴まれて、未だに抜け出せない状態でも焦っている彼女が、また更に様変わりした顔色を見せた。驚愕のあまりビックリした顔で相良十次を見つめている。


 「何が悪い。どこの世界にもいるだろ、反逆者って呼ばれる奴が。コイツはまさしくそれなんだよ」


 「いくらそうでも……」


 土御門カヤノは夜憧丸に捕まった。これで動けない状態である。これ以上は不穏な真似はさせない。


 「この能力が一番の俺の党首になるメリットだ。俺が党首になれば、少なくとも俺の寿命までは、陰陽師の世界はこれ以上の厄災は受けない。俺に起こる全ての厄災を弾く、これはそういう羽衣なんだ」


 「超瞬間的な未来予知、毒味の必要のない危機察知能力、自分の身を守る最強の盾。なんだ、そのチートアイテムは。ここにきて自慢話か? 絶対に回避出来ないように追い詰めればいいだろ」


 「それすらも回避するのが絶対回避信号だ。まぁ、使用制限時間があるから、なるべく温存しているけどな」

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