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後継

それは考え方が違う。奴は心が腐っていくほど、目的達成の為に下衆っぽくなって、心が荒んでいき、精神が研ぎ澄まされていく。精神を狂わせていながら、汚染していながら、本人の心を強化しているのだ。


 「相良十次。私はこの陰陽師の世界が狂ったのは、全て安倍晴明が悪いと思うのですよ。陰陽師という組織は、彼から始まったから駄目だった」


 「お前の子孫も、安倍晴明の党首任命に参加しているはずだ」


 「えぇ。だって、もう私の声だけではどうにもならない状態でしたから。あの、クズ野郎が言い出した事ですよ。五芒星を全員引き連れて有無を言わさず納得させようと。外部の協力な妖力を持つ神々の娘を招き入れ、漏れなく天照の娘をたぶらかし、饒舌と脅迫によって全てを手に入れた。土御門は従うしか無かったのです」


 夜憧丸の怪力をもってすれば、こんな半分腐ったような橋は簡単に破壊出来る。剣を引き直すくらい蔵さもないだろう。だが、相良十次は動かさない。決意のある目で土御門カヤノを睨む。


 「なんですかぁ? その目は。そんな顔をすれば私の考えが変わるとでも? 私は今の今まで、全ての党首を見て把握してきました。土御門は唯一、役職を持つ五芒星。結界術に長けており、将軍のお膝元で乱世を見据える大貴族。だから、党首が腐っている様を私は嫌という程見てきた」


 …………。始めて矢継林続期に出会った時に、他の陰陽師が何をしているのか尋ねた。1人は反対して引き籠った、これは白神棗の事である。眠ったまま起きてこない、これは因幡辺であろう。別の仕事に忙しいというのが、この土御門カヤノであったのだ。


 「貴方の子孫が島流しの刑に処される瞬間も目の当たりにしましたよ」


 「なんだと」


 「才能の低い兄が、兄よりは優秀な弟の斡旋を恐れて、島流しの刑にしたのですよね。嘘の罪をでっち上げて、罰を全て弟に被せたのです。あの頃は長男が跡を継ぐという風習が蔓延る中で、弟が寝首をかくというのも当たり前でしたから。嫌な戦国時代ですね」


 歴史の教科書でも、兄弟同士が後継争いで醜い殺し合いをするのは珍しくない。だが、陰陽師の世界でもそんな馬鹿みたいな事が行われていたとは。およそ悪霊を倒す為にしている行動ではない。自分の地位を磐石にする為に行っている自分本位な行動だ。


 「優秀な方が党首になるべきですよ。つまらない意地やプライドで、人々に安心と安全な生活をプレゼント出来ますか? だから嫌いなんです。縦社会、上下関係、年功序列、先輩後輩、服従制度。そんな物でも数年の歳月が経てば、徐々に組織が衰退していくと分からないのでしょうか?」


 「なんか俺が説教を受けているみたいだな」


 「陰陽師にリーダーなど不必要なのです。そうはおも……」


 「思わない!!」


 土御門カヤノの言葉を奪い取って、大声で反論した。怒りの感情を顕にして、拳を固めて仁王立ちし、大声でこの場にいる全ての人間に聞こえるように言い放った。


 「『たられば』を語るな。大事なのはこれからだ。俺たちは陰陽師であり神様ではない。未来なんて分からないし、何が正解の政策かなんて分からない。それをお前から判定される義理はない」


 「…………はぁ?」


 「お前の言う通り、安倍晴明がこの世に誕生しなかったら、もっと悪霊退治が上手く進んでいるのかもしれないな。だからどうした? 泣いても喚いても過去は変えられない。反省点があるなら再発防止策を立てよう。でも、リーダーが不必要というのは、お前の勝手な解釈だ」


 「いらないだろうが」


 「必要さ。人間は1人では生きていけない。話し合いには進行役が必要だ。面倒事には人柱が必要だ。それを俺が引き受けてやると言っている。地位も名誉も権限も財力も人気も俺にはいらない!! でも、俺が党首じゃないといけないんだ!!」


 信者にしろ、批判家にしろ、誰か指揮棒を振る人間が人類には必要なのだ。災害などで飢饉なった際に腹いせで殺される王様がいたように、宗教により独自の考え方が広まったように。誰かが神様の代わりになって、『正しい』と発言しなくてはならない、法律を敷かなくてはならない。


 「俺の事が嫌いでもいい。俺の事が間違っていると語ってもいい。俺は必要以上に意見を無視したり、独断で行動したりしない。でも、俺に最終決定権を持たせろ。全責任は俺が取る。陰陽師の階級制度は廃止する。しかし、責任は平等に分配すべきじゃない、誰かが背負って立つ物だ。だから、土御門カヤノ!!」


 ひと呼吸おいて大声で怒鳴った。


 「全責任は俺が取る。だから、安心して俺について来い」


 俺はお前が見てきた腑抜けと同じじゃない。そう言いたかった。島流しにあって、絶望的な暮らしを強いられて、誰にも助けを求められない中で耐え忍んだ一族。それが相良家である。土御門カヤノは御門城にて歴代の党首の存在を全て確認し、その上で子供に記憶を引き継がせてきた。しかし、島流しあった相良家については、記憶があるはずがない。


 「なんだよ、お前……」


 「俺はお前の知っている安倍晴明ではないぞ!!」

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