表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/221

尺取

相良十次は内心では恐怖を感じていた。相手は正気ではない。それでいて五芒星のエリートである。まるで今まで初代党首の子孫である事を隠していたのとは対極的お嬢様だ。土御門家は名を知らぬ者はいない名門なのだ。いくら目目連が属性で優位とはいえ、この陰陽師の申し子のような女に勝てるのだろうか。


 「タイマン勝負? 望むところです。いや、好都合と言った方がいいですね。私は貴方を殺しに来たのですから。正直、レベル4の悪霊はサポートの目的で活躍する予定だったので」


 「つまり、アンタは俺を殺したくて、倉掛絶花は柵野眼を殺したいって話ね」


 「その通り」


 主張が分かりやすくて宜しい事だ。いや、殺害予告されて喜ぶほど戦闘狂ではないが。相良十次は冷や汗をかいていた。呼吸は少し乱れて落ち着けない状態である。


 「俺がお前に勝ったら、大人しく俺を党首に任命しろよ」


 「はぁ? 殺すと言っているんだよ。お前を党首にさせない為に。死んでも任命しねーよ」


 ここまで嫌われる所以は分からない。妖怪と仲良くする方針や、陰陽師の学校化、年功序列や古き意味のないシキタリの廃止、それらの条例を嫌がっているのだろうか。


 「対話するつもりもない!! さっさと死んでくれ!!」


 鎖を自力で引きちぎった。そこまで筋力のある身体に見えないが、おそらく溢れる妖力で、鎖を弱体化させたのだろう。体制を立て直すと、すぐに上体を起こす。天羽々斬を構えた。バットの素振りのように大きく空を切らせる、またも斬撃が飛んで来た。


 「危ねぇ!!」


 目目連を展開して亜空間へと斬撃を飛ばした。咄嗟の行動だったので、もう少し反応が遅れていたら身体が真っ二つになるところだった。


 「どうして俺を殺そうとする!! 俺とお前は初対面だよなぁ!!」


 「お前が安倍晴明の子孫である以上は、酷似する妖力を持つお前だけは、絶対に党首にする訳にはいかない!! お前の子孫は全陰陽師を狂わせた張本人だ。新しく妖怪と仲良くするだと!! 妖怪に式神という名前を付けて、飼い殺す事を命令したのは安倍晴明が最初だろうが!! 今更、優しい男を気取って、妖怪にも優しい政策を打ち出しましたみたいなつらをしているじゃあない!!」


 遠距離攻撃を諦めた。チィーという不気味な鳴き声と共に顔の無い太った大蛇が相良十次を上空から襲う。かなり距離が離れていたのに、驚異のジャンプ力で飛び跳ねたのである。このまま体重で押し潰すつもりだ。


 「マズイにゃあ!! 相良十次ぃ!!」


 矢継林続期が叫ぶ。彼女は助けに割っては入れない。のっぺらぼうに拘束されて身動きが取れないのである。タイマン勝負など守る義務はない。今すぐあの土御門カヤノの頭上に拳骨げんこつを振り下ろしたいのに。


 「死んじゃった」


 白神棗は動かない。残りの緑画高校の生徒も動かない。自分たちの信じる党首がタイマン勝負と語った以上は、助太刀はこの上ない侮辱になる。しかし、こんな呆気ない負け方をするならば、卑怯でも何でも助けに行った方がいいかもしれなかった。


 余裕の表情をしているのは、鶴見牡丹と渡島塔吾のみである。


 「いやいや、亜空間を自由に行き来する能力がある奴が、今ので死ぬはずがないじゃん」


 「皆さん、慌てなくても大丈夫。彼なら……」


 そう、相良十次は死んでいない。またも咄嗟に目目連を呼び出して、今度は自分が亜空間へと逃げたのだ。障子の表面積ならば人間1人は簡単に入り込める。


 「ちぃ、上か。逃げ回りやがって」


 相良十次は夜憧丸の肩の上まで逃げていた。悪霊装甲、羽衣『かぐや』を身に纏っている。ただの毛糸のマフラーではない。悪霊の魂で練り上げた武器だ。


 野槌も人間を丸呑みにする程度には巨大な妖怪だが、やはり夜憧丸のサイズに比べると、幾分か見劣りする。特に奴には手足がない。ジャンプ力がいくらあろうとも、両手両足が無いと複雑な動きは不可能のはずだ。


 「夜憧丸っ!! まずはツチノコからだ!!」


 巨大な刀を鞘から抜き、縦切りの一刀両断の構えを取る。集中しているのが、この途端に訪れた静けさから読み取れる。夜憧丸は狙いを定めて、腰をゆっくりと曲げていく。野槌は動かない、楽勝で躱せると言わんばかりに、刀が降ってくるのを待っている。


 降ろした……。


 しかし、やはり攻撃は当たらない。野槌は尺取虫しゃくとりむしのようなポーズで後方へとジャンプし、開門海峡の外へと出て山口県側の地面へと降り立つ。先程まで白神棗と蟹坊主が戦っていた場所だ。空振りした刀は木製の橋を叩き壊し、大穴が空いた状態になる。真っ黒の甲冑だけで出来た超巨大妖怪、夜憧丸は確かにこの上なく強力な妖怪だが、その強さが故に周りに与えるダメージは尋常ではない。


 「この瞬間を待っていましたよ。私が結界術の達人だという事を忘れましたか?」


 夜憧丸が刀を抜き去る前に橋を一瞬で元通りにしてしまう。壊れた建物の修理を一瞬で完了させるなど、普通では考えられない。開門海峡が元より河童の聖地と言われるほど、橋そのものに妖力を溜め込んでいる存在ではあるのだが、それを差し引いても早すぎる。これぞ五芒星の成せる技だ。


 「これで刀は抜けませんね。力づくで抜きます? 私が補強したこの橋から」


 「本当に頭が狂っているのかよ。かなり冷静じゃないか」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ