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顔無

 ★

 

 柵野眼に逃げられた。だが、本当の意味で殺したい相手は他にもいる。相良十次。安倍晴明の子孫にして、現陰陽師機関党首代理の座に着いている。土御門カヤノはそんな奴が気に入らない。今は八岐大蛇の瘴気にやられて精神が正常を保っていないが、それを差し引いても相良十次のことは嫌いだった。


 同じ方針の思想家として白神棗がいるが、彼女とは似ていて異なるものである。白神棗の場合は単なる自分に理解出来ない物への嫌悪だが、彼女の場合はもっと深い理由がある。彼女は安倍晴明の時代から蘆屋道満が党首に相応しいと思っていた。もし陰陽師の世界にリーダーが出るべきだと思うなら、彼が適任だと思っていた。


 蘆屋道満が英雄気質だったから。自分の事よりも他人を気にかける男で、曲がった事を嫌い、卑怯な真似をせず、格式や信念を重んじながら、正々堂々と戦う男だったから。まさに理想の主人公だった。損得感情で動かず、常に誰かを守る為に動いていた。


 だからこそ、出世やリーダーに興味が無かった。結局は半ば騙し討ちのような真似をされ、安倍晴明に党首の座を奪われ、本人も特にその事を気にせず、意義を唱える事もなく、初代党首が決まってしまった。今の残っている文献が全て安倍晴明を美化して描かれているのは、彼がそうするように部下に命令したから。本人はかなりの下衆野郎だった。


 その事実を代々に渡り記憶を受け継ぐ事で鮮明に覚えている土御門カヤノは、相良十次も同じように思えていた。レベル4の悪霊が現れたというのに、それを立ち向かうどころか早々に諦めて、自分が党首になる為に女の尻を追い回している。そんな男に党首になって欲しくない。あの時の悲願を達成する。彼女も心にそんな思惑があった。


 「お前を党首にさせてたまるか!! それだけは絶対に認めない!!」


 八岐大蛇から天叢雲剣を採取する際に使用した天羽之斬は、彼女の式神である野槌の身体に戻っていた。顔のパーツのないツチノコから、突然に大きい口が出現し、直刀が姿を現す。先が折れた十束剣とつかのつるぎ。ヌルヌルした液体のしたたるる剣を躊躇ためらいいなく握り、夜憧丸を強く睨む。剣を大振りした、土御門カヤノの信念の籠った一撃が空中に向かって放たれる。


 「斬撃を飛ばした!!」


 そんな理事長の声も束の間で、攻撃は夜憧丸に向かっていく。図体が大きくて早い攻撃が避けられない。腹部に斬撃と化した妖力の塊が直撃した。甲冑にダメージは無かったが、夜憧丸が大きく後ろへと下がる。それなりの効果があるという事だ。


 「アイツ、今度は相良十次を殺す気だ」


 「そうはさせないにゃあ!!」


 今度は矢継林続期が駆け出した。メイド服から鬼神装甲で巫女の姿へと変わる。化け猫と猫又を服の中に吸収した。これで火の妖力は爆発的に上昇する。地面に焦げ跡をつけながら、弾丸のように突っ走る。彼女の懐へと一瞬で入り込む。剣の間合いを避ける為に高速移動で近づいて、自分の優位な位置に立つ。彼女ならではの機転だ。


 だが、彼女の回し蹴りは受け止められた。傍で何もしている感じでは無かった『のっぺらぼう』が急に割り込んできた。『のっぺらぼう』のサイズは小学校低学年程度の身長しかない。回し蹴りが顔面へと入る。顔がないので、鼻血や前歯が折れたりなどはない。


 「いや、多少は手加減したけど、私の蹴りを顔面で受けて平気なはずないにゃあ」


 そう、『のっぺらぼう』は立ち退かないのである。直立したまま動かない。蹴りの反動で倒れたり、後方に吹っ飛んだり、そういう当たり前の物理的法則が起こらない。まるで何事も無かったかのように突っ立っている。当然、その後ろの土御門カヤノも無事な訳で。


 「コイツ、どういう能力だにゃあ」


 足を地面に引き戻そうとした瞬間に、矢継林続期は『のっぺらぼう』に腕を掴まれた。瞬間的な超高速の出来事だったので、矢継林続期も慌てたような顔をする。高熱を帯びているはずの自分の手を臆さず握るとは。


 「マズイにゃあ。掴んで離れないにゃあ!!」


 腕を引き千切る為に掴んでいるのではない。圧力は感じないからだ。まるで、母親の裾を握って離れまいとしている子供みたいだ。


 「それが『のっぺらぼう』のシンプルな能力ですよ。掴んだら離さない」


 「そんな馬鹿にゃあ!! にゃああああ!!」


 力づくで引き剥がそうと健闘するも、『のっぺらぼう』は絶対に腕を離そうとしない。奴はパワーではなく、能力で掴んでいる。このまま格闘しても分離は見込めないかもしれない。


 「…………やっぱり私が止めるべきだよね」


 この場で相性が最も良いのは、白神棗である。金は木に強く、火は金に強く、水は火に強く、土は水に強いように、土属性に対抗出来るのは木属性の力だ。木は根を地中に張って土を締め付け、養分を吸い取って土地を痩せさせる。白神棗は心の責任感を感じつつも、このまま相良十次を党首にする事に疑念を感じている。


 「白神棗。それでいいですよ。相良十次は党首になりうる男ではない。だから、そうやって何もしないのが正解です。そこの火属性の五芒星は頭が可笑しいのですから」


 「意味もなく真っ黒のライダースーツを着ているお前に言われたくないにゃあ!!!」


 怒号が飛び交う中で、冷静に行動している人間がいた。土御門カヤノが取り乱す瞬間を待っていた人間が。またも攻撃は唐突である。地面から無数の黒鎖が土御門カヤノの身体を拘束する。彼女が気を緩めた一瞬の出来事だった。


 「俺の目目連も木属性だぜ」


 「相良十次……」


 「タイマン勝負だ。俺が決着をつける」

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