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飛行

蘆屋道満の子孫であり、超一流の陰陽師である倉掛絶花。たかが中学生にして化け鯨という捕獲不能の妖怪を式神に持ち、それでいて本人の能力も高い。騙しのテクニックにも優れていて、相手をこ蹴落とす技術に優れている。


 なのに、今回の闘いの中で彼はそれを発揮しない。戦闘意欲があるのかも疑わしい。虚ろな目で酔いしれながら、項垂れているだけ。腰の伝説の剣には触れもせず、ただ苦しそうに下を向いている。もうすぐ死期が訪れるというのに。姉を殺す事を意識しているのだろうか。それを嫌がって彼なりに躊躇ちゅうちょしているのだろうか。


 いずれにせよ、今は倉掛絶花や土御門カヤノと戦っている場合ではない。


 「この結界が厄介だ。光波干渉で叩き切れるけど、すぐに回復しやがる。抜けられない」


 土属性の特徴だ。金属性と違って鋭さや硬度は低いが、その分手軽に構築出来て、尚且つ修復が恐ろしく早い。光波干渉は一度に何度もは放てない。こうも簡単に元通りになっては通れないのだ。しかも、倉掛絶花から目を離せないというオプション付きだ。


 (天叢雲剣は使い手に死を齎す。早くあの子から剣を奪わないと。それで間に合うかも疑問だけど)


 「そうなのか!? やっぱり八岐大蛇よりも前に、あの剣を真っ二つに切るしかないか。でも、その為にはアイツから剣を奪わないと。いや、そうしても絶花が助かるとは限らない。どうすれば倉掛絶花は助かる? くそぅ、考える事が多すぎる……」


 ここから逃げられない。前門に虎、後門に狼だ。このまま五芒星全員が膠着状態に閉じ込められて、動けないまま、八岐大蛇の破壊活動を指を咥えて見ておくしかないのか。


 「誰か、この結界を……」


 ★


 次の瞬間に結界が破壊された。見覚えのある巨大な漆黒の甲冑が姿を表す。連続切りにより修復が間に合わない程に斬撃を浴びせ、見事結界を破壊してみせた。その巨大な妖怪の名前を夜憧丸。陰属性の妖怪にして、現代理党首の式神だ。


 「相良十次……。この結界を破壊してくれたのか……」


 「倉掛絶花め。引き返す事になったぞ!! ちくしょうが!!」


 そこには多くの緑画高校の生徒を引き連れた相良十次の姿があった。かなり汗ばんでいる。ここまで走りっぱなしだったのだろう。かなりの体力の消耗を感じる。


 「相良君。『ぬらりひょん』は?」


 理事長の答えに、片手をメガホンにして口に添えて、即座に返答する。


 「死にました。取り巻きの陰陽師や、『おどろおどろ』、『わいら』と言う最後の総大将の手下どもも。全て倉掛絶花に倒されました」


 緑画高校の生徒の1人が大声で答える。倉掛百花がまた唖然とした顔をする。この場では完全に動かない絶花だったが、他の場所ではちゃんと行動を取っていたのか。ここで別に倉掛絶花が動かない訳ではないという情報を耳にして、心から危機感を覚える。


 「当然です。党首になる男ですから。ゴミ掃除を買って出てくれる素晴らしい陰陽師でしょう?」


 「って、ことは相良十次は何もしていないのか。うわぁ、どっちも選びたくない」


 「白神棗ちゃん。そういう毒舌は他所でやって欲しいにゃあ。今は党首任命とか言っている場合じゃないにゃあ。八岐大蛇やら、この二人やら」


 「……アッシが考えますに、これはチャンスじゃないですかぃ? 結界が破れた今ならば、倉掛のお姉さんは晴れて八岐大蛇を仕留めにいけやす」


 ここで気が狂った絶花を見捨てるのは苦肉の策だ。正直に言って助けてあげたい。しかし、絶花の反撃の可能性がある事や、戦闘すべきではない事情を鑑みると、ここは大人しく退散して別のターゲットを倒す方が合理的だろう。


 「ごめんね。緊急事態に助けてあげられなくて」


 意を決した。倉掛百花は後ろを振り向いて開門海峡を駆け出す。


 「って、移動手段がない!!」


 「アッシがお供しやす。幽霊列車では時間が掛かり過ぎるでしょう。アッシの白溶裔しろうねりに跨って行くのが、一番に速そうだ」


 そう言って白溶裔の背中に乗っけて貰う。次の瞬間に大きくジャンプして上空へと駆け上がり、そのまま飛行を開始する。


 「ソッチは任せたにゃあ。コッチはコッチで頑張るにゃあ」


 「ちょっとたった2人でいいの? 相手は八岐大蛇なんでしょ?」


 白神棗が大声を張り上げる。呆れ顔で理事長がそれを諌めた。


 「何人もの陰陽師が束になったって、あの怪物には意味がない。それよりも精神が汚濁されて、今の彼らのようになるだけだ。それならば、行かない方がマシだ。それにこの場所も人手が足りているとは言えない」


 遂に戦闘が始まってしまった。野槌が夜憧丸に向かって大きく飛び跳ねて、噛み付いたのである。野槌は顔のパーツがないツチノコだ。それなのに妖力で相手を察知したのか寸分狂わない攻撃である。腕の甲冑の接合部分に噛み付いて、振り回しても離れない。刀で大振りして、ようやく地面に降り立った。


 「逃がしたか。まあいい。お楽しみはとっておこう。まずは……陰陽師の世界を腐らせたクズ野郎の子孫を始末しよう。安倍晴明の子孫だな。性懲りもなく、また党首の座を狙っているのかい?」


 「土属性の巫女。土御門だったのかよ……」

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